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PENTATONEの新譜:バセット・クラリネットで奏でる協奏曲 [ディスク・レビュー]

PENTATONEの次世代スター、ベルギー期待のクラリネット奏者、アンネリエン・ヴァン・ヴァウヴェ。


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自分はすごい期待しているんだな~。スターのオーラ、華があります。デビューして、さあというときに、ちょうどコロナ禍にぶつかってしまって可哀そうだったけれど、来日してほしいと願っている奏者の1人です。


ベルギーのアーティストで、ベルギーをこよなく愛する自分にとって、きっと運命の糸で結ばれて出会ったアーティストなんだろうと思っています。


いくらオーディオや音源で聴いていて、そのアーティストがどういう演奏家なのか、どんなに妄想下の中でいろいろ議論していても、そのアーティストの真髄を理解するのはなかなか難しいというのが自分の持論。


1度でいいから、たった1回でいいから、生演奏に接してみればすべてわかると思うのである。何千回、何万回のオーディオでの聴き込みよりも、1回の実演を見れば、そのアーティストがどんな演奏家なのか、のすべてが瞬時でわかる。実演、体験に勝るものはなし。


逆に1回経験してしまえば、あとはオーディオで聴いていても、そのサウンドに対して、迷い葛藤のない素直にそのまま受け入れることが可能だと思うのである。アーティストの素性がわかっているので、あ~あういう感じなんだな~と、懐を広くして迎え入れることができる。


これが自分のいろいろな経験から到達した持論である。


オーディオでの議論は、これまた別次元の話だと思うのである。


アンネリエン・ヴァン・ヴァウヴェは、そんな想いをさせてくれる、いま1番、実演に接してみたいアーティストだ。


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ザビーネ・マイヤー、ヴェンツェル・フックス、アレッサンドロ・カルボナーレ、パスカル・モラゲスといった錚々たるクラリネット奏者に師事してきたヴァウヴェは2012年、最難関のコンクールとして知られるミュンヘン国際音楽コンクールで優勝した逸材。


2017年夏のプロムスのデビュー後、2018年にはロイヤル・アルバート・ホールやカドガン・ホールにてトーマス・ダウスゴー指揮BBCスコティッシュ交響楽団との共演でモーツァルトのクラリネット協奏曲を披露するなど、ヨーロッパ中心に活躍の場を拡げている。


PENTATONEと契約してのデビューアルバム「ベルエポック」は衝撃であった。パリがもっとも輝いていた時代、ベルエポックを彷彿させるじつに華やかで優しい感じの聴きやすいアルバムだった。


それに続く待望の第二弾のアルバムである。




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「フロー~モーツァルト:クラリネット協奏曲、ヘンデリクス:経典」

アンネリエン・ヴァン・ヴァウヴェ、アンドルー・マンゼ&北ドイツ放送フィル





アルバム・タイトルの「フロー(Flow)」はヴァウヴェが愛する「ヨガ」からインスピレーションを得て構想されたものなのだそうだ。


彼女がいまもっぱらヨガに嵌っていることはよく知っていた。


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ヨガはいいですね。健康だけでなく、精神、心の健康にすごくいいです。自分はヨガとはちょっと違うけど、体幹運動、体幹トレーニングやってます。体幹運動は、体のバランス感覚がよくなります。お金かからないし、ちょっとした感じですぐにどこででもできるので、ぜひお勧めです。


モーツァルトのクラリネット協奏曲は、もう彼女の18番のオハコで、2018年にBBCスコティッシュ交響楽団と披露して有名になって、いわゆる彼女の代名詞的な曲となっただけに、それがちゃんと録音という形で出た、ということはとても意義あることだと思う。


この最愛の協奏曲に対して、彼女のもうひとつの拘りがあった。これはあとで述べよう。


さらに今回のアルバムのもうひとつの聴きどころは、もうひとつの協奏曲。ヘンデリクスに委嘱したクラリネット協奏曲「経典(SUTRA)」の世界初録音だろうと思う。


アントワープを拠点に活動を続けるベルギーの作曲家ヘンデリクス。


電子楽器(エレクトロニクス)を多用することでも知られ、「Antarctica」レーベルからリリースされているソプラノ独唱、5パートの女声合唱、アンサンブル、エレクトロニクスのための作品「Revelations(天啓)」などでも知られている。作風はインスピレーションを与えるヒーリング・ミュージックのようで、管弦楽に寄り添う形でエレクトロニクスが加わっているのが特徴である。


今回のアルバムで、自分を惹きつけた要素、1番の売りと思うのは、全曲バセット・クラリネットを用いて演奏していることだ。


バセット・クラリネットとは?


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バセットホルン、バセットクラリネット、クラリネット




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ベルを上向きにしたモダン式バセットクラリネット



バセット・クラリネットは、クラリネットの低音域を記音ハ(C3)もしくはさらにその半音下まで拡張した楽器である。これをもちいることで、モーツァルトがクラリネット協奏曲K.622や五重奏曲K.581に記譜したと考えられている最低音まで演奏できる。


この楽器はA管クラリネットよりも4つの低音(Es、D、Des、C)までの音域を出せるのが特徴なのである。モーツァルトはバセット・ホルンの名手だったシュタードラーが同じ音域を出せるバセット・クラリネットを演奏したことでこの作品を彼のために書いたのだそうだ。



初演当時の楽器は現存していないが、モーツァルトの協奏曲の初演者であるシュタートラーが演奏した18世紀末に開催されたコンサートのプログラムが1992年に発見され、そこに楽器の挿絵があったことから、奇妙な形のベルを伴った姿がほぼ当時のまま再現された。ただし現代のバセットクラリネットの形状は通常のクラリネットの下管を長くし、キーが増設されたものである。


2006年の生誕250年には、モーツァルトの協奏曲の形式と演奏時間だけを模した現代音楽の作曲コンクールがオーストリア、ザルツカンマーグートの「モーツァルト・フェスティバル」で開かれたそうだ。


その後、モーツァルトの協奏曲を演奏する際には多くの奏者がバセットクラリネットを用いるようになり、この曲を演奏するためには欠くべからざるものになっている。



通常のクラリネットよりも低音域が少し伸びていて、モーツァルト記譜当時の音が再現できる、ということなんですね。


思ったのは、低音域が伸びているのはわかったけれど、これは実際奏者にとって、吹いている感覚、演奏する上での難しさなど、現代楽器と比べてどうなのか、ということ演奏面の立場から知ってみたいですね。


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モーツァルトのクラリネット協奏曲。彼女の代名詞的な曲、アンネリエン・ヴァン・ヴァウヴェを代表する18番のオハコのこの協奏曲を、このモーツァルト当時のバセット・クラリネットを使って演奏する。


この曲を演奏するためには欠くべからざるものになっているバセット・クラリネットを使うことは、ある意味、彼女の大きな拘りとこの曲、モーツァルトへの大きなオマージュなんだろうと思う。


ここがこのアルバムのメイン・ディッシュと言っていいのかもしれない。



実際聴いてみたのだが、普段クラリネットだけを特別に意識して聴いたことがないため、通常のクラリネットとの音色の違いを認識することは難しかった。


楽器がそうだとという先入観で聴いてみると、低域の深みや沈み込みなど、よりリアルで、低域がしっかりしてくると全体の音像の描かれ方も、より音の隈取がくっきりするような感覚は確かにする。低域の強化は、中高域に確実に影響を及ぼします。


微妙なところであろう。意識して聴くことが重要だ。


彼女のモーツァルトのクラリネット協奏曲はやはり絶品である。今回のアルバムではNDRがバックを務めているところも贅沢である。


さすがのコンビネーションで、絶品のコンチェルトを聴かせてくれた。


自分がこのアルバムでもっと評価したいのは、ペアリングされているヘンデリクスのクラリネット協奏曲「経典(SUTRA)」の世界初録音だ。


モーツァルトの明るい長調的な旋律から、一気にこれは現代音楽か、と間違えるほど、前衛的でアバンギャルドな旋律が流れてきて驚いてしまう。あまりにモーツァルトと対極的である。そしてなんとも曲の雰囲気がヨガの影響を大きく受けているという印象を受けるのである。


ヨガってもともとインド、東洋発祥のものですね。


もう聴いていると、静的で瞑想的なのだ。そしてあのインド音楽のような独特のコード進行が自分を瞑想の世界へと誘ってくれる。


これはあきらかにヨガの影響が大きいな~というのが一番の印象である。ヘンデリクス自身もインスピレーションを与えるヒーリング・ミュージックのような作風だそうなので、ある意味ヨガとぴったりと合うのだろう。そういうところも含めて、ヴァウヴェがヘンデリクスに委嘱したのだろうと推測する。



サウンド的にもモーツァルトより、とても刺激的でいい音だと思う。いつも思うことだけど、どうして現代音楽っていつも鋭利でいい音に聴こえるのだろう。


いま彼女が一番熱中しているヨガの世界を、このアルバムのコンセプトに込めたかったというのが、アルバムタイトルの「フロー」と、このヘンデリクスのクラリネット協奏曲「経典(SUTRA)」に現れているのだと思う。


そういう意味で、モーツァルト、バセットクラリネット、そしてヨガと彼女の渾身の想いが詰まったアルバムだと言えるであろう。


素晴らしかった。


残念ながら、今回はSACDマルチではなくCDなので、2chステレオで聴いているのだが、録音のできのよさは、それでも充分なくらい自分には伝わってくる。特にクラリネットの傑出した音色。見事であった。2chステレオでもいい録音はビシッと自分に必ず響いてくるものだ。


聴いた瞬間、驚きというのがある。



自分がとても感動し、我が意を得たり、と思ったことに、今年の年初に公表されたスティングのインタビューがある。


スティングは、AC/DCについて「僕はAC/DCには敬服する。彼らのやっていることは素晴らしいと思うし、一緒に演奏している姿やサウンドも素晴らしい」と言ったあと、「AC/DCのレコードは何が出るかいつもわかっている。高品質だけど、何が出てくるかわかっているので、僕には向いていないんだ」と話している。


さらにスティングは自分の音楽の好みについて、こう語った。


「僕にとって、すべての音楽の本質は驚きなんだ。ある音楽を聴いたとき、最初の8小節で驚きがなければ聴くのをやめ、スイッチを切ってしまう。


僕には驚きが必要なんだ。ドミニク(ミラー、スティングのギタリスト)と僕にはJ.S.バッハという先生がいるんだけど、バッハを8小節演奏すると、毎回驚きがある。そして次の8小節、また次の8小節...。この作曲は本当に驚きの連続なんだ。


僕にとっては理論的なことではなく、ただの本能的なものなんだけどね...。



自分は、まさに音楽ってそう!と思っていたので、このスティングのインタビューには本当に嬉しさを隠せなかった。AC/DCのファンには申し訳ないけど。


録音についても同じことが言えると思っている。聴いていて驚きがないと、感銘しないものである。それはコンサートホールの音響と同じで、一発目の最初の出音で全部わかってしまう。


いい録音って一番最初の出音で、そういう驚きが必ずあるものなのである。


クレジットを見てみたが、PENTATONEのアルバムだが、ポリヒムニアという印字がなかった。プロデューサー&エンジニアリングは、リタ・ハーメイヤーとダニエル・ケンパーであった。


う~ん、世代交代。。新しい人材をどんどん活用して育てていくという感じなのかな。時代を感じました。


ひょっとしたら、ポリヒムニアではなく、NDR側のエンジニアなのかもしれない。


NDRハノーファー、放送局スタジオ大ホールでの録音でした。


でもこれをマルチチャンネルで聴いてみると、さらなる全然すごいいいサウンドなのかもしれない。きっと自分のステレオ再生がプアなだけで、2chステレオももっときっといい録音に違いない。


PENTATOINEの最近のアルバムは、すっかりCDしか出さなくなったけれど、SACDマルチチャンネル復活を望みたいです。







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