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伝説は受け継がれていく。阪田知樹 ラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会 [国内クラシックコンサート・レビュー]

”伝説は受け継がれていく。”
                                                  
いまから12年前。2011年8月6日。サントリーホール。高関健指揮東京交響楽団で、清水和音さんがラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会をおこなった。
                                                 
当時は大変チャレンジングなマラソンコンサートということで、日本のクラシック界の話題をさらったし、この偉業は自分の心の中に深く刻まれている。
                                                 
いまでもはっきり覚えている。だから、自分にとって、ラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会といえば、もう清水和音さんの代名詞なのである。
                                                 
あれから12年後、
                                                 
阪田知樹という若者が、この偉業に再挑戦しようとしている。
                                                 
今年はラフマニノフ生誕150周年、没後80周年メモリアルイヤーということで、ラフマニノフの企画が各地でおこなわれていて、それに合わせるように、阪田知樹氏が、ラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会に挑戦しようというものである。
                                                 
1番→2番→4番→パガニーニの主題による狂詩曲→3番
                                                  
12年前の清水和音さんのときとまったく同じ演奏順番である。
                                                 
13:30開演で16:45終演。途中2回の休憩時間を挟むものの、3時間15分。
ピアノ協奏曲を1日で5曲演奏すると言っても、3時間15分で済むなら、意外やこんなんで終わってしまうの?とは思う。ラフマニノフのコンチェルトは、1曲が意外や1時間もかからない。30~40分ぐらいで終わってしまうものが大半だからであろう。
                                                 
とはいえ、演奏するピアニスト側からすると、難曲と言われているラフマニノフのピアノ協奏曲を1回のコンサートで全曲演奏するとなると、これはもう大変なことで精神力、体力の極限まで達することだと思う。
                                                  
本当にご苦労様である。
                                                
                                                
                                                 
2023年9月17日。同じサントリーホール。ここに日本のクラシック音楽界のこれからの次世代を担っていく若い世代の阪田知樹が、その偉業を達成した。大井剛史指揮・東京フィルハーモニー。
                                                  
                                                 
”伝説は受け継がれていく。”
                                                 
神話、伝説、偉業は偉大なる先人から若い世代へと受け継がれ、後世へと語り継がれていくのである。
                                                  
約束通り、この偉業達成にともない、自分は12年前にmixiのほうに上げた”清水和音 ラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会”の日記をブログのほうにもアップ、デビューさせたいと思う。この日記は、mixiのみの公開になっていて、ブログとして公開されていなかったのだ。
                                                  
阪田知樹氏の偉業を祝して、清水和音さんの日記を、阪田氏のコンサートレビューといっしょに併記してあげようと思うのである。
                                                  
これが、自分の阪田知樹氏の偉業に対する敬意と献呈である。
                                                  
清水和音さんの日記は、なにせいまから12年前なので、いま読み返してみると、自分の文章力やコンサートレビュー力の稚拙さが目立ち、お恥ずかしい限りである。改訂しようとも思ったが、やはりニュアンスが変わってしまうし、あの時のコンサートの印象はもう忘れかけていて、再レビューするほどの記憶がない。やはり一字一句変えずに原文のままアップする。
                                                  
                                                  
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阪田知樹
                                                  
愛知県名古屋市生まれ、横浜市育ち。5歳からピアノを始め、西川秀人、渡辺健二、パウル・バドゥラ=スコダ、アリエ・ヴァルディの各氏に師事。6歳より作曲を始め、音楽理論・作曲を高橋千佳子、永冨正之、松本日之春の各氏に師事。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校卒業後、東京藝術大学音楽学部器楽科を中退し、ハノーファー音楽演劇メディア大学[1]に特別首席入学。学士課程、修士課程ともに最優秀の成績にて修了。2021年現在第3課程(ゾリステン・クラッセ)に在籍。
                                                  
2015年CDデビュー、2020年3月、世界初録音を含む意欲的な編曲作品アルバムをリリース。内外でのテレビ・ラジオ等メディア出演も多い。
                                                  
2016年フランツ・リスト国際ピアノコンクール(ハンガリー・ブダペスト)第1位、6つの特別賞。コンクール史上、アジア人男性ピアニスト初優勝の快挙。「天使が弾いているようだ!」-Leslie Howard-と審査員満場一致、圧倒的優勝を飾る。
                                                  
2021年世界三大音楽コンクールの一つ、エリザベート王妃国際音楽コンクールピアノ部門にて「多彩な音色をもつ、知性派ヴィルトゥーゾ」-Standaard-と称えられ第4位。
                                                  
第14回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールにて弱冠19歳で最年少入賞。「清澄なタッチ、優美な語り口の完全無欠な演奏」-Cincinnati Enquirer-と注目を集める。
                                                  
イヴァン・モラヴェッツ氏より高く評価されイヴァン・モラヴェッツ賞、ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ、聴衆賞等5つの特別賞、クリーヴランド国際ピアノコンクールにてモーツァルト演奏における特別賞、キッシンゲン国際ピアノオリンピックではベートーヴェンの演奏を評価され、日本人初となる第1位及び聴衆賞。
                                                  
現在、国内はもとより、世界各地20カ国以上で演奏を重ね、国際音楽祭への出演も多数。
                                                  
                                                 
                                                 
                                                  
なかなか自分は若い世代の演奏家のコンサートに行くことは稀なのであるが、阪田知樹氏はぜひ行ってみたいとかねてから思っていた。なかなか知性派な人で、クラシックの音源などにも詳しくそこが自分のようなオーディオマニアと似ている側面を感じて興味を惹かれるきっかけとなった。
                                                  
また見た目のルックスもかなりのイケメンで、天が二物を与えたかのようなバランスのとれたピアニストのように感じていて、そこがさらに拍車をかけた。
                                                  
そこに、このラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会の企画を知り、これはいい機会、ぜひ聴きに行こうと思った次第である。
                                                  
昨日、このマラソンコンサートをコンプリートして拝聴した結果、自分が感じた阪田知樹氏の印象。
                                                 
これは凄いピアニスト!
                                                  
ということだった。
                                                      
とにかく想像以上に凄かった。
                                                
                                                
スマートで線が細い。いわゆる体育会系の爆演タイプではないけど、パワーはかなりある。指が高速で良く回って、打鍵も均等で精緻。走るタイプ。乗ってくると一気呵成に走るタイプ。やっぱり若い。とにかくエネルギーがすごい。瞬発力というかバネがあって、跳ね返ってくるようにリズミカルに弾いて、切れ味も鋭い。ここに若さを感じるなー。自分がいままであまり経験したことのないピアニストだった。(ふだんあまり若いピアニストを聴いてないので。。笑笑)
                                                   
反面、もっと柔らかいタッチがほしい。柔らかいのと強打腱とで緩急がつくといいな~。基本走るタイプなので、弱音、ピアニッシモのときに、もっと柔らかさがでて緩急がつくともっといいな~。いま細いけど、もっと体が大きくなってガタイがよくなってくると自然とそういう柔らかさも出てくるのかな~。
                                                  
・・・そう思って聴いていたところ・・・
                                                   
パガニーニ・ラプソディーの第18変奏や、ラフマニノフ3番の第2楽章などの緩徐楽章とか弱音再生部でも、ほんと信じられないくらい柔らかいタッチで、なんだこっちも得意なのか、と。(笑)
                                                  
もうパーフェクトじゃないか。すごい。弱点があまり見つからない。
スマートな細身だけど、パワフルでバネがあって、指が良く回る。そんな印象。
                                                 
いまの若い男性ピアニストは、みんなこんなにパワフルで上手いのか、そんな印象を抱いた。他の若い男性ピアニストもどうなのか、聴いてみたくなった。
                                                  
とにかく凄かった!
                                                  
ざっとラフに振り返って統括してみるとこんな感じのピアニストだった。
たった1日のコンサートでの印象だけど、ラフマニノフの難曲を5曲も連続で聴いたわけだから、たぶん本質としてほぼ間違いないであろう。
                                                 
パーフェクトなピアニストだった。
                                                  
まだ30歳だよ!(驚)
                                                 
たった30歳ですでにここまで完成されているのもどうか、と思うくらい。(笑)
若いうちは、まだもっとのびしろがあったほうが、将来もっと化ける可能性を秘めていて、将来大器となるケースもそのほうが育ちやすいということもある。
                                                  
でも阪田氏はおそらくいま現在でこれだけの完成度を誇っていても、さらに高みに向けて精進して上を目指していくに違いない。あくまでピアノが素人の自分の感想なので、もっとプロ目線で見れば、改善、精進していくポイントは何か所もあるのだろう。
                                                 
またラフマニノフだけでなく、いろいろな作曲家のレパートリーを増やしていくこと。これも大きなテーマでもある。ピアニストとしては、そのレパートリーから生涯自分はどういうタイプのピアニストとして、クラシック界に認知されていきたいのか。
                                                  
ショパン系なのか、現代音楽系なのか、ラヴェルやドビュッシーのようなフランス系なのか、あるいはモーツァルト、ベートーヴェンのようなきっちりと音階的な型のある古典派を中心にやっていきたいのか。あるいはラフマニノフのようなロマン派の得意なピアニストとして売っていきたいのか。。。はたまたあるいは全部が得意なオールマイティな巨人になりたいのか。。
                                                  
もういろんな選択肢が待っている。ピアニストとしていちばん重要なところは、やはりそこなのかな?これは膨大な時間がかかりますね。やっぱりピアニスト人生かけて一生涯研磨する内容だと思う。
                                                  
今年に入って、ものすごい公演量をこなしている。ピアニストとしての経験、場数、レパートリーをどんどん増やしている過渡期なのであろう。
                                                  
頑張ってほしい。
                                                  
それでは、今回のラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会。1曲ずつ簡単に感想を述べて振り返ってみたい。
                                             
                                          
                                                                                                           
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●ラフマニノフ ピアノ協奏曲第1番
                                                   
2番、3番はすごく有名だけど、自分はじつは1番もかなり大好きである。ラフマニノフらしいロマン的な旋律が随所に現れながらも、かなりアバンギャルドなコード進行というかカッコいいのである。この独特のカッコよさは2番や3番にはありませんね。1番だけが持っている魅力だと思っています。1番のときは、かなり連打のときの打鍵の響きが混濁する感じで、自分は最初座席による音響のせいかな、とも思ったが、つぎの2番以降は、そういう混濁現象は起こらなかったので、やはり1番特有の和音進行とか、そういう譜面上の構造の問題からそう聴こえてしまうのだろう。
                                                   
この1番の演奏で、初めて阪田知樹氏の演奏を聴いたわけだが、第一印象は走るタイプのピアニストだな、と感じたことだった。どんどん走るタイプ。若さあるゆえに、1度乗ったら怖いというか、どんどん走っていくタイプ。打鍵も強打腱でパワーがかなりある。スマートで線が細いんだけど、パワーはある。そんな印象を受けた。
                                                  
                                                 
                                                  
●ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番
                                                  
この曲は、あまりに有名なスタンダードな曲で、もう数えきれないくらいたくさんのピアニストの演奏を聴いてきたし(もちろん音源でも)正直この曲は誰が弾いてもあまり差を感じないというか、そのピアニストの力量を量るには難しい曲かなと感じる。
                                                  
ピアニストの力量を確認しながら聴くというよりは、どうしても曲自体を聴いてしまうのである。(笑)相変わらずいい曲だな~という感じで。この曲、ほんとうに名曲だと思います。阪田氏の2番は、非常にオーソドックスな解釈、アプローチで正統派の2番を聴かせてくれました。
                                                  
                                                  
                                                  
●ラフマニノフ ピアノ協奏曲第4番
                                                   
ラフマニノフのピアノ協奏曲の中でもっとも演奏される機会が少なく、ほとんどレアな曲。こういう機会じゃないとまず経験できないであろう。今回全曲のマラソンコンサートだから聴けたが、単品で披露されることはあるのだろうか・・・
                                                  
ヒット曲としての音楽の造形、型というか、そういう型がきちっと決まっていないような印象を抱く散文的な構造で、ラフマニノフらしいなあ~素敵なロマンティックな旋律だな~そういう旋律が現れたと思った途端、それが長続きしないのである。つぎにすぐにまた違う音型へと展開していく。つねに散文的で聴者がのめり込みにくい難しい音楽のように感じる。
                                                   
ヒット曲がなぜヒット曲なのか、というと、そこにヒットするだけに理由があって、コード進行やリズムの韻、全体としての音型にきちんと型があってそれが人の心を魅入るそういう魅力の秘訣がそこに全部詰まっているのである。リピートや繰り返し、サビの部分の登場とか、ヒットする曲は、もう音型のルールがきちんと型にはまっている。
                                                   
4番はそれがなかなか見いだせない難しい曲なのである。聴者がその型を見つけることが難しい。その型に安住することが難しい。つねに違う進行で新しい展開をしていく。そういう感じの曲である。ある意味ラフマニノフらしくないと言えばそうかな、と思う。
                                                  
反面、オーケストラとピアノの競演が非常にかけひきが面白く、丁々発止とでも言おうか、かなりお互い語り合いながら連携していってハーモニーを作っていくのが素敵だ。まるで現代音楽を思い起こさせるような旋律なのだけど、そこにピアノは連射、トリルのような速砲弾のような連打が連なり、ピアニストとしてはかなり腕の見せ場なのではないだろうか。こういう場面になって、自分は阪田氏はかなりテクニックのある上手いピアニストである、ということがここでようやく認識し始めた。
                                                  
正直言うが、1番、2番では初印象を掴むのが精一杯で、ピアニストとして上手いのか、凄いのかはよくわからなかった。また1番、2番はあまりに知っている曲、いろいろなピアニストの演奏で知り尽くしている曲なので、よく差がわからなくて、阪田氏の力量を見極めるのは難しかった。
                                                   
阪田知樹が本物である。かなり上手いピアニストである、と確信し始めたのは、この4番からである。4番のオーケストラとピアノの丁々発止のやりとりを聴いてから、こりゃテクニックのあるピアニストだな、とようやく確信を持てるようになった。
                                                   
滅多に聴くことのできないブラボーな4番であった。
                                                  
                                                  
                                                   
●パガニーニの主題による狂詩曲
                                                  
ごぞんじラフマニノフの大人気曲。パガニーニの主題を手を変え、品を変え、どんどん形を変えて24種類のいろいろなバリエーションで進んでいく変奏曲である。この曲はまた独特の美しさ、クセになる魅力的な旋律がある。第18変奏の一部分だけを捉えるのではなくて、いろいろ変貌していく主題の変奏を全体として捉えるというか、そこにこの曲を楽しむコツがありますね。
                                                  
阪田氏のパガニーニ・ラプソディーは、非常にスタンダードで、教科書通りの解釈。正統派の演奏を聴かせてくれた。最初の1番、2番、4番、そしてパガニーニ狂詩曲。ここまで阪田知樹のピアノは、パワフルで精緻というピアノ奏法の特徴はあるものの、音楽の解釈としては、極めてオーソドックスで保守的な伝統的で教科書通りの解釈をするピアニストだな、と感じた。独特の色付けとか独創性をアピールする、そういうピアニストではないと感じた。
                                                  
とくにこのパガニーニ狂詩曲で新たな発見だったのは、弱音、ピアニッシモのときの柔らかいタッチである。体の線が細くて、しかも走るタイプなので、どうしても強打腱連射だとすごいアピールするんだけど、静かな弱音再生の部分は、柔らかいタッチが必要になり、別の自分を披露する必要がある。自分は素人だからよくわからないけど、ピアノって早く速射砲のように連打弾くことよりも、スローな部分を柔らかく静かに弾くことのほうが技術的によっぽど難しいのではないか。まさに息を止めてこらえながら弾かないといけない。感覚的にそう思う。
                                                   
こういう弱音再生の柔らかいタッチが上手にできると、それが反動で強打腱の連打も生きてくるのである。逆に強打腱の連打だけだと一本調子のピアニストに感じてしまう。この緩急の差、柔らかいタッチ、そして一見ゴムまりのように弾む強打腱の連打、これを、いかにおたがい上手に披露できるのかが、上手いピアニストの完成された姿なのかなと思う。
                                                   
もっと体が大きくなってガタイがよくなってこれば、こういう柔らかいタッチも自然とうまくなっていくのだろう、と思いながら聴いていたのだが、このパガニーニ狂詩曲で第18変奏を代表とする散々出てくる弱音再生の部分では、ものの見事な柔らかいタッチを披露してくれて驚いた。なんだ!これも得意じゃん!という感じで。(笑)
                                                   
つぎのラストの3番の第2楽章もすごいメローでスローな聴かせる箇所なのだが、じつにソフトで柔らかい表現を披露してくれた。
                                                  
あっぱれであった。
                                                  
                                                 
                                                  
●ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番
                                                    
そしてこの全曲演奏会のトリをつとめるのが、我が愛するもっとも敬愛する第3番である。3番の魅力については、もう散々書いてきたので、ここでは割愛するが、まさにトリに相応しいドラマティックなエンディングである。
                                                 
12年前の清水和音さんも3番を弾きたくてピアニストになった、と豪語するほどで、3番に対しては並々ならぬ愛情と特別の感情を抱いている。譜面上の音符の数が非常に多く、奏法的にも非常に難しい、弾けるピアニストはなかなか存在しない。そういう曲である。
                                                      
阪田知樹のラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番は、それはそれは素晴らしかった。
阪田氏のピアノは、いままで聴いてきた分には、あまりイレギュラーな解釈をしない、オーソドックスな基本的な解釈に忠実と思っていたのだが、この3番ではかなり趣が違っていた。
                                                
非常に個性的で、いままでに聴いたことのないようなオリジナリティのある独特な3番であった。まずテンポを揺らすというか、じっくり歌い上げるような部分やメローな部分では非常に遅く、スローなテンポで、そして走る部分はかなり速いテンポで。。というようにかなりアップダウンの激しい抑揚のある揺らすタイプの3番であった。
                                                   
自分はいままでどちらかというと、全体を通して比較的1本調子、均一なスピード感の演奏を聴いていた感触が多いので、そういう演奏が染みついている耳には、かなり揺らすタイプだな、と感じた。こういうのもメリハリが出てきて、なかなか素晴らしいと感じた。
                                                   
そして第1楽章のカデンツアの部分。ここは初めて聴くカデンツァだった。いままで聴いたことがないカデンツァであった。コロコロと転がすようなトリル的な装飾を施して、明るい感じの表現をしていた。もちろん根底にあるのは従来のカデンツァのメロディなのだが、そこにアドオンしてそういう装飾を加える感じである。これはなかなか新鮮であった。誰のカデンツァなのだろう?阪田氏は自分で作曲や編曲もするらしいので、ご自身で創作したカデンツァなのであろうか?ここはかなり驚いた。非常に魅力的だと思いました。
                                               
3番のここ!というような見せ場、そしてテクニックの披露する部分、物語の展開の劇的なところ。。。そういうところはどちらかというと保守的できちんと伝統通りの表現に忠実な演奏であった。
                                                
でも随所随所に、テンポを揺らすことと、独特の慣れた弾きまわし、抑揚のつけ方など、かなりこなれた自分なりの解釈を大いに盛り込んでいて、全体としてかなりドラマティックになるように工夫をされているのが、素晴らしいと感じた。
                                                          
またテクニック的にも素晴らしかった。やはり3番はどうしてもパワーのある男性ピアニストが有利な曲ではあります。男性ピアニストらしいパワフルで切れ味のするどい奏法は、ほんとうに聴いていてスカッとさせてくれるし、やはり男性ピアニストだな、と再認識させてくれた。
                                                     
3番の最高の場面である最後のエンディングのシャットダウン。いままでの長い音楽絵巻物語をここにて一気に終結するラフマニノフ終止。頂点にどんどん上り詰めていく進行のオーケストラでの上昇部分。ここまで、ためにためてゆっくり歌い上げるスローなテンポは初めて聴きました。(笑)ここまでやるか!という感じでもうびっくり。
                                                     
そして一気呵成にピアノの連打で最後はすざましいシャットダウン。
その瞬間、もう鳥肌が立ちました。
                                                    
さすが男性ピアニストともいうべき、その迫力と切れ味。
                                                                 
格好良かったです。
                                                             
その瞬間、ホール内は大歓声。そして一気にオール・スタンディングオーベーションとなりました。3時間15分の長いドラマが終結した、その劇的な終結の瞬間にみんな高揚して、自分を抑えることができないような感じであった。
                                            
                                                                                                       
ドラマは終わった。
                                                        
                                         
                                               
3番は、自分の時代は、あまりに弾くのが難しいので、弾けるピアニストがあまりいなくて、実演に接することが難しい曲でした。でもいまの若い男性ピアニストは、いとも簡単に弾いちゃうんですよね。(笑)技術の進化というのは、ほんとうに凄いです。
                                                                    
阪田知樹のラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番。
                                                                           
あらたに自分のラフ3コレクションに加えておこうと思います。
                                                                
最後に、見事に競演を務めた指揮・大井剛史氏と東京フィルハーモニー。
                                                     
素晴らしい演奏で、非常に分厚い弦のサウンドがかなり気持ちよく充実して鳴っていました。ピアノを表に出すべく、あるときは掛け合いで語り合い、お互い足並みをそろえての3時間。
                                                        
見事でした。
                                                  
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阪田知樹 ラフマニノフ・ピアノ協奏曲全曲演奏会
2023年9月17日(日) 13:30~16:45
サントリーホール 大ホール
                                                  
ピアノ独奏:阪田知樹
指揮:大井剛史
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
                                                                     
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第1番
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番
                                                        
(休憩)
                                                                     
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第4番
パガニーニの主題による狂詩曲
                                                            
(休憩)
                                                                    
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番

                                                                             

                                            

                                                        

                                           

                                                       

                                           

                                                           

                                                                  








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