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米元響子 イザイ無伴奏ヴァイオリン・ソナタ全曲録音 [ディスク・レビュー]

米元響子さんは、ずっと気になっていたヴァイオリン奏者で、実演に接するべきだったのはデビュー20周年にて初のCDデビューをして、そのデビュー20周年記念リサイタルを浜離宮朝日ホールでおこなった2019年だったろうと思う。


絶対このときがタイミングであった。
まさにこのタイミングで行くべきだった。


そのとき、自分は大いに気になっていたのだけれど、ご多分に漏れず、マーラーフェスト直前でちょっと二の足を踏んでいたんですよね。でも気になって仕方がなくて、その期間中を耐えているのが大変でした。(笑)


なにせ20年目にして初のCDデビューが、イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ全曲と、その当時メディアで話題になっていた新発見の未完の無伴奏ソナタまでもが収録されているのだ。


しかもSACDである。
さらにはなんと!録音時は、DSD11.2MHzの諸元で録音している、という。


イザイの無伴奏ソナタ全曲+未完・新発見ソナタをSACDで聴ける。
日本イザイ協会もバックアップ!


そして演奏会でもイザイの曲をふんだんに聴ける。

これはまさに自分のためにあるだろう。(笑)
行かないとダメだろう。

という大変なジレンマでした、当時。


いま考えれば、本当に愚かであった。チケット代金なんて、たかだか8000円ぐらいにしか過ぎないものを、そんな額さえケチって、貴重な機会を失ったとは、一期一会をみすみす逸したようなものだ。


マーラーフェストで自分が失ったものは、かなり多かったです。(笑)
あとになって、ずいぶん後悔したものです。


そんなときにハクジュホールでふたたび米元響子ヴァイオリン・リサイタルが開催される、という。しかもこのCOVID-19の規制の中でも開催されることがホール側からアナウンスされた。


自分の大のお気に入りのハクジュホールでの開催はやはりうれしい。
これはもう行くしかない。同じ失敗は2度としない、である。


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米元響子さんは1997年パガニーニ国際ヴァイオリンコンクール(イタリア)において、史上最年少13歳で入賞。その後、2001年日本音楽コンクールでも優勝、その後も様々なコンクールで優勝入賞を重ねているまさに実力者。2018年3月末からは、サントリー芸術財団より1727年製ストラディヴァリウスを貸与され、その芸と音色に凄みも増し、ますますその音楽は充実してきている。


これまでCDがなかったのが不思議なほどなのだが、それはレコーディングには大変慎重な姿勢を見せていたから。デビュー20周年を迎え、また素晴らしい楽器の力も得て、まさに機が熟したといえるこのタイミングでの初CDとなった。


現在、オランダ・マーストリヒト音楽院教授。


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20年もCDデビューをためらっていたのはなぜなのか?


「石橋を叩いても渡らない慎重な性格」ゆえとのことだが、自分で徹底的に納得できないと、そしてどうしても拘る部分と言うのがあったのであろう。


ご本人のインタビューで、本番コンサートとレコーディングとの差で、こんなことを言っていた。


本番は1回のみ。その空気とかで作る音楽。でもレコーディングは、それが未来永劫でも聴かれるかもしれない。そこを考えるとものすごく完璧を考えてしまう。これではいけない、という欲との戦いで、肉体的な疲労も感じられた。初めての経験だったので、勉強になりました。自分と向き合う、自分の演奏を聴いたときに客観的にどうか。ギャップがあったりするのも面白がって聴いていました。


その完璧さをあまりに求めるがゆえに、なかなか踏み切れないところがあって、一切の妥協を許さない厳格な姿勢で臨めるまで、またそのような作品に出会えるまで、20年と言う月日を要したのだろう。


その記念すべき最初のデビュー作にイザイを選んだ理由は、


自分が現在、勤務しているオランダ・マートリヒトから30分くらいのところに、イザイの生地、ベルギー・リエージュがあり、そこの図書館を訪れて、イザイの手稿譜を閲覧する機会があった。オペラの断片だったりとか、書き途中でアイデアをやめてしまった曲とか、そういうのを全部拝見した。ものすごい几帳面に書かれていて、推敲や書き直しもありありと見て取れ、その面白さに夢中になった。いろいろなアイデア、楽譜の裏にあるメッセージが読み取れた。20年来抱いていたこの作品の「わからなさ」もどんどん氷解していく。


さらにブリュッセルへ赴いて、近年発見された未完のハ長調のソナタも自身の解釈で研究を重ねた。もう一回全部イザイやってみたいな、という気持ちになった。


イザイはロマンティックでファンタジーがある。時間のギャップ、自分が50年前に戻った、なんか新しい部分とそういう昔の部分と混ざったような引き込まれるような感じがあった。




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無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(全6曲)、未完のソナタ ハ長調 
米元響子



イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ全曲、そして未完のソナタをSACDで聴けるというのは現代で考えられる最高のイザイ録音だと思う。


まさに新しい録音である。

なかなかイザイ・ソナタの全曲録音ってあまりないというか、見かけませんよね。
貴重な作品だと思う。


しかもDSD11.2MHzでの録音である。


録音評はまた後述するとして、イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタについて、もう一度お勉強し直そう。なにせイザイの世界は、しばらくの間ずいぶんご無沙汰していた。


日本イザイ協会や、イザイ音楽祭ジャパン2018、このときが自分のイザイの頂点だった。あれから3年もご無沙汰なので。。。


イザイの世界は難しいですよね。初見はなかなかとっつきにくい難しい音楽なのだけれど、ずっと聴き込んでくると、じわじわとその良さがわかってくる。だから時間をかけて聴くことが必要である。


6曲から成るイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタは言わずとしれた難曲ぞろい。自身優れたヴァイオリニストでもあったイザイが、バッハの無伴奏ソナタ&パルティータを強く意識して書いたもの。(イザイの自筆譜にはバッハの各曲の調性のメモもある)


イザイの曲で演奏会で演奏される曲と言ったら、もうこの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」が1番の定番ではないだろうか。ショパン国際ピアノコンクール、チャイコフスキー国際コンクールと並んで世界三大コンクールのひとつと言われているエリザベート国際王妃音楽コンクール(ベルギー・ブリュッセルで4年ごとに開催)の課題曲の常連でもある。


各曲が名ヴァイオリン奏者やイザイの高弟に捧げられている(献呈)のも特徴。第1番はシゲティ、第2番はティボー、第3番はエネスコ、第4番はクライスラー、第5番はイザイの高弟でイザイ弦楽四重奏団の第2ヴァイオリン奏者を務めてもいたマシュー・クリックボーム、第6番はイザイの高弟、マヌエル・キロガに捧げられている。


バッハの引用があったり、グレゴリオ聖歌の引用があったり、また、バロック風、スペイン舞曲風、印象派絵画のような楽曲など、実に個性豊かで超絶技巧も随所に盛り込まれた楽曲ぞろい。


今回米元さんは常にイザイの自筆譜のコピーを手元に置き、イザイの声を追い求めながら録音に臨んだのだそうだ。


いままでの自分の経験からすると、イザイと言ったら、超絶技巧、譜面も音符の数が多く、うわ、めんどうくさい、とつい思ってしまうくらい高度な演奏テクニックを要する曲が多くて、その調性も独特という印象がある。


3年前のイザイ音楽祭ジャパン2018もほとんど初演の曲が多く、聴いていて非常に難解だなぁと思ったものである。正直よく理解できなかったところも多かった。


でも無伴奏ソナタはずっと聴き込んでいると、なんとも言えないその独特の構成美とか、リズムとか、わかってくる感じがするものなのである。素人ながらですが。。その境地に達するには何回も聴き込むことが必要ですね。1回だと難しいな、で終わってしまいます。


だからコンサートで初演の曲を聴くときは、なかなか難しく、それでハイ終わり、となる場合が多い。


イザイの無伴奏ソナタを聴くコツを伝授しよう。
自分の経験してきた聴き方である。


イザイを聴くときは、作業をしながらの流しで聴いているうちはいつまで経ってもその良さはわからないのである。イザイを聴くときは、きちんとリスポジに陣取って、集中して、意識して聴かないとダメである。


”意識して聴くこと”
これが一番大事である。


ソナタ1番から6番までの各曲には、必ずイザイ独特の超絶技巧のこれでもか、という連発、見せ場というのが必ず盛り込まれている。


各曲に必ずある。


その超絶技巧がある意味その曲の見せ場のようになっていて、そこが何回も聴き込んでいくうちにクセになる感覚で痺れてきて快感になるのである。旋律の移動の仕方が、ふつうの曲とは違う突拍子もない移動の仕方をしたりですごいイザイ特有のオリジナリティーがある。それも超絶技巧をしながら移動していく感じである。


ある意味、不協和音(笑)とも思えるようなその非常識な展開に痺れるようになったら、もうこっちのものである。曲の構成感がかなり独特だと思います。


そんな激しい一面を見せたかと思うと、時々ピッツィカートでほろっとさせる一面もあって、その緩急が素晴らしいです。


まさにイザイの世界ですね。


1番から6番まで結構バラエティに富んだ曲で、全部好きだが、特に2番がいいかな。美しいですよね。ある意味、イザイらしくないというか、とっつきやすい受け入れやすい不偏の美しさがありますね。第3楽章のピッツィカート美しいです。第3~4楽章にかけてのこれでもか、という超絶技巧、痺れます。


3番も上(高域)から下(低域)にかけて広い音域を超絶技巧しながらぐっとスライドして駆け抜けていくさまはかなり痺れますね。3番もかなり好きです。


1番はがっしりとした構成美があって、2~4番は、コンサート向けの受けやすい要素がありますね。5,6番も素晴らしいです。


とにかくイザイの世界は意識して聴かないと絶対その良さがわからないと思います。流しで聴いてちゃ絶対ダメです。



近年、ブリュッセルで新発見された未完のソナタが収録されているのも、この録音の最大の魅力である。従来のイザイ録音にはなかったもの。


2015年にブリュッセル王位音楽院に寄贈されたイザイの遺品の楽譜帳の中に、現行の無伴奏ソナタ6曲の草稿に混じって、別の「第6番」と題して、試行錯誤の形跡を示すスケッチと、それを整理して書き直した清書が書き留められているのが発見された。


それが、このハ長調の無伴奏ソナタ。


第1楽章、第2楽章は完成しているが、第3楽章は未完で途中で中断されている。


本場のクノック・イザイ国際音楽祭の芸術監督で、イザイの孫弟子にあたるフランスのヴァイオリニスト フィリップ・グラファン氏が、この同じ楽譜から、未完部分を独自の研究と解釈で補筆した「完成版」を2018年に完成させた。


自分は、この補筆版をイザイ音楽祭ジャパン2018で東京文化会館小ホールで、その当の本人のフィリップ・グラファン氏の演奏でじかに聴きました。


そのときは理解できないというか、よくわからなったんですよね。(笑)

でも貴重な体験をさせていただいた、という感じであった。


米元さんのアプローチは、またこれとはちょっと違う。


未完の部分は未完のまま残し、また、イザイが記した、一見必ずしも合理的でないと考えられるボウイングや運指の指示なども採用。草稿や他の無伴奏ソナタも参照にしながら、彼女の視点でイザイ自身の意図を探り、それを忠実に再現したのが、当録音なのだそうである。


フィリップ・グラファン氏の演奏のときは、その前後に演奏される曲に脈略がなかったので、単発でよく理解できませんでしたが、米元さんの場合は、アルバムとしてソナタ全6曲を聴いたあとの一番最後にこの未完ソナタが収録されているので、いわゆるイザイのソナタの音楽観みたいなものが俯瞰できます。


そうすると素人の自分が思うには、この未完ソナタのその曲風も結局前作ソナタ6曲の延長線上にあるものなんだな、という感じがしました。けっして未完ソナタだけが独立しているものでなく、イザイの作風のひとつを占めるに過ぎないということがわかるのです。


米元響子というヴァイオリニストは、録音という形で初めて聴きましたが、非常に演奏技術が高く、その解釈力も優れていて、ここまでの作品に仕上げるところを見ると、かなりのレベルのヴァイオリニストだと思いました。


2月3日、明日ハクジュホール行きます。
実演がとても楽しみです。



最後に録音評である。


最初の一発目の出音の印象は、ひと言でいえば、オンマイクでデッドな響きだなぁという感じだった。(笑)あれれ?という感じでどうしよう?と焦って、クレジットを見たら、関口台スタジオでの録音のようだった。


スタジオ録音ならそういう感じに聴こえるのも納得である。


自分の好みとして、もうちょっと空間が欲しいというか、ホールの響き、空間の響きが欲しいですね。コンサートホールのセッションで録ってほしかったかも。スタジオで録るとどうしてもデッドになりますね。


クラシックにとって空間の響き、ホール感って、大事ですから。実演の生演奏と同じ環境をユーザーは求めます。


でも大音量で聴くとだいぶそういうネガティブな印象も和らぎます。オーディオはやっぱり大音量で聴かないとダメですね。平日の夜間の小音量と休日の日中の大音量とではずいぶん印象が違います。


なにがポジティブに変わったかと言うと、その解像感、情報量の多さ。ヴァイオリン1本ですが、その楽器が鳴っているその実在感、リアル感がかなり生々しくて、素晴らしいと思いました。定位もしっかりしている。


ここら辺はさすがにDSD11.2だけあると思いました。
いわゆる高音質、音が良いという印象ですね。


やはり録音って結局スペックだけじゃないんだな、と改めて思ったことです。そのロケーション、マイキング含めてのいかにその空間をキャプチャーするかの総合技術なんだということを改めて認識した次第です。


これらが全部揃ってはじめて優秀録音になりますね。


とにかくこのアルバム、素晴らしいです。イザイのそんな魅力を満遍なく発揮している類まれなアルバムだと思います。なかなかお目にかかれないイザイ・ソナタの全曲録音+未完ソナタ収録の”新しい録音”としての金字塔でしょう。


自分の今後のイザイ録音のバイブルにします。


このディスクレビュー、リリースされた2年前の2019年にしておかなければいけなかったよね。(笑)


とにかく明日が楽しみ!






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