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体験!軽井沢ヴィラセシリア音楽堂 [コンサートホール&オペラハウス]

永田音響設計の創始者、永田穂さんが、人生最後の自分へのご褒美として、最晩年に音響設計した音楽堂が軽井沢にある、ということを知った。


イタリアの小さな教会をイメージして設計したそうで、「50席。これが最高のぜいたくです」と仰っていたとか。


これはぜひ体験しに軽井沢に足を運ばないといけないと直感した。


軽井沢ヴィラ・セシリア音楽堂。


軽井沢駅から徒歩15分くらいの距離で、軽井沢別荘地帯の中にある自然豊かで大変恵まれた環境に立地していた。


この音楽堂にある2つのパイプオルガン、イタリア・ルネッサンス様式のパイプオルガンとバロック様式のパイプオルガンとの競演のオルガンコンサートを開催するという。


この音楽堂を体験するには、もう最高のシチュエーションではないか、と思い、GWの真っ只中、緊急事態宣言下にあっても予定を強行した。


軽井沢ヴィラ・セシリア音楽堂については、その音響データやそもそもその音楽堂の情報などあまり存在しなく、結構謎めいた神秘的な音楽堂である。


教会なのか、というと、定期的に司教をよび、信者を集めてミサをやる、という感じでもなさそうで、ここにあるパイプオルガンを使って、春と秋にオルガンコンサートを開催するという感じなので、教会と言うよりは、やはり音楽堂という呼び方が適切なのであろう。


軽井沢に2007年に設立、音楽の守護聖人の名を冠したオルガン専用ホール。聖母子像の絵が飾られた礼拝堂のような静謐な空間。客席は50席。オルガンコンサートに理想的な豊かな残響をもち、日本で唯一の16世紀イタリア・ルネサンス様式のパイプオルガン(フランチェスコ・ザニン・オルガン工房製)を設置。ブルーと金色の装飾が美しく、手動フイゴ(パイプオルガンの送風装置)での演奏も可能。ガルニエ社製ポジティオルガン完備。オルガン教室も開講しているという。


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この日のオルガンコンサートでのお話、そしてオルガニストは、和田純子さん。
じつはこの音楽堂を含めたこの建物は、和田さんの邸宅なのだそうだ。
和田さん個人所有の音楽堂なのだ。
もう驚きとしか言いようがない。


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オルガンコンサートは、14時半から開演なのであるが、自分は早く着きすぎて、12時には到着して、この美しい庭園の椅子に腰かけて、美しい自然の風景をひたすら眺めてホケ~としていた。


脳を休めていたのである。


街の喧騒音はまったくせず、鳥のさえずり、ときたま教会の鐘が鳴るというまったく音のしない世界。この自然の美しさを眺めながら、脳を休めるには最高のシチュエーションであった。


そうすると建物の中から和田さんが出て来られ、時間を間違えているのではないかと心配され、声をかけてくださった。簡単なご挨拶といくつかの会話を交わし、開演の時間を待つこととした。


そしてついに開場。
春のオルガンコンサート、たったの2000円である。入口で現金払い。
素晴らしい環境に、良質な音楽で、たったの2000円。


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音楽堂は、入り口から入って地下のほうに降りて行って、そこに入り口がある。
そこから音楽堂に入る。


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オルガンの響きのためには1000m3の空間が必要とのことで、床は地下1階、天井は2階建家屋の屋根まであり、壁はコンクリートの打ち放しというまさに中世ヨーロッパの小礼拝堂を思わせるたたずまいである。この大きさ(高さ)の建物を地上に建てるには、軽井沢では 建築許可が下りず、やむなく地下を掘ったという造りである。


これは一般家庭のオーディオルームの建築もそうですね。オーディオルームをいちから自前で造るなら、やはり天井が高い3m/4mくらいの天井高が欲しい。でもその高さは、建築法からなかなか難しく、地面を掘ることで、天井高を稼ぐという方法ですね。



詳細は定かではないのだが、オルガン専用ホールとして設立されたときは、まだパイプオルガンが搬入されておらず、ます最初のパイプオルガンがこの音楽堂に搬入されたのが、4年後の2011年のようだ。


それが、このイタリア・ルネッサンス様式のパイプオルガン。


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イタリアの伝統ある製作技術を誇る老舗オルガンビルダー、フランチェスト・ザニン・オルガン工房による日本では珍しい歴史的オルガン建造法で忠実に再現されたという16~17世紀のイタリア・ルネサンス様式のパイプオルガン。


このパイプオルガン、まずオルガンにとって理想的な音響の空間を作る事から始め(色々残響調整で工夫をされたそう)、その後その空間に最適なオルガンを作れる製作家を世界中から選択し、どんなオルガンにするかを製作家と存分に討議した上3年という年月を経てついに完成したという、演奏家が最高のパイプオルガンを持とうという熱い想いがやっと実ったというべき作品となったそうなのである。


つまり、まずハコである音楽堂を先につくって、そこの残響時間ふくめ、その空間に最適となるオルガンをあとから造ったということである。


和田純子さんの個人による音楽堂で、オルガニストでもある和田さんが、最高の音楽堂で、そこで鳴る最高のオルガンを制作してしまう、という自分の究極の夢をとことん突きつめたのが、この軽井沢ヴィラ・セシリア音楽堂なのだ、という事実をここにしてようやく自分は理解できたのである。


もう驚きとしかいいようがなかった。
音楽堂の情報があまり公式になっていないのもそういう背景があるのかもしれない。


北イタリアに工房を持ち、多くのオリジナル樂器の修復や多彩なモデルの製作で7代に渡る長き時代オルガン製作を続けてきたというザニン工房のオルガン。拝見すると各所に長年の経験から得られたという伝承の技が駆使されている上に今回またこの工房お得意のイタリアルネサンス様式の楽器とあって素晴らしい出来で仕上がっている。


聞けば経験豊富な技術者の現場でのシビアなパイプのヴォイシング作業と念入りな調律の賜物だとか。また手フイゴ(パイプオルガンの送風装置)での演奏が可能だそうである。


オルガンのために設計された空間に最適なモデルを設置するという夢のようなストーリーで完成したこのパイプオルガン。このイタリア・ルネッサンス様式のパイプオルガンこそ、この音楽堂のもっとも大切な命の源なのであろうと確信した。



そして、あらたに去年の2020年2月にイタリアからこの音楽堂に搬入したのが。このバロック様式パイプオルガン。


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オルガンケースは200年前に制作された調度品(飾り棚)を使用。木管ゲダクト8、ロールフルーテ4、プリンシパル2の3ストップ。調律法はヴァロッティだそうである。


新しいパイプオルガンは、イタリア・ルネッサンス様式オルガンと同じ、イタリアの会社の同じ人の作でだそうで、小型のパイプオルガンであるが、表から見える金属のパイプは、飾りだそうで、裏に “木のパイプ”を使っているそうで、柔らかく優しい音色がする。



全体に楕円形上の形状をしていて、天井の高さはそれこそかなり高い。


コンクリート打ちっぱなしの全方位とも石造りの空間。もちろん反射音の吸音ゼロの世界であるから、エネルギー減衰することなく、どんどんエネルギー感ある音で空間は充満する。天井、床も石造りである。


まさにイタリアの小さな教会、礼拝堂を思わせる空間である。


自分がその音響を実際、聴いてみてまず驚いたことは、とにかくその残響時間の長さである。これはハンパないほど凄いものであった。自分のヨーロッパ経験含め、これほど響きの長い空間は体験したことがないくらいであった。


自分の直感のものさしだと、残響時間5秒~7秒は軽くあるな、と勘が働いた。


コンサートを聴くうえで響きの豊かないいコンサートホールの残響時間は、2秒を目安に音響設計されている。この軽井沢ヴィラ・セシリア音楽堂の音響設計データは正式にはパブリックにはなっていないようなのであるが、残響時間は8秒なのだそうである。


残響時間8秒の世界。


まさに自分にとって前人未踏の世界。

これが残響時間8秒の空間であるか~という感じである。


イタリア・ルネッサンス様式のパイプオルガンは、教会と同じように、背面の天井の高いところに設置されているのだが、音の出どころがまったくそことはわからない音離れしている感覚で、まるでしっかりと前方定位、いや完全な全方位定位ともいうべきか、まさに天井から四方八方から音が降り注いでくる感覚なのである。


自分の全身に、まさに研ぎ澄まされた、いかにも石造りの吸音ゼロの反射音である硬質な音のシャワーを全身に浴びるという想像を絶する凄い空間であった。


まずハコを造って、その音響空間に適切なパイプオルガンをあとから作り込む。
そうして得られた、まさに計算され尽くした音響が、いまここにあるのだ。


残響時間8秒の世界は、いろいろ自分に考えさせられることもあった。


それは途中、和田さんのお話、スピーチがあるのだが、その声が、空間に響きすぎて、よく明瞭に聞き取れないのだ。響きが多すぎる空間というのは、本当に気持ちのいい空間と自分は思っていたので、それがこんな副作用があるとは思ってもいなかった。


もちろんマスクをして話されていたということも加味するべきであろうが、それでも声に響きが重なって聞きずらいなぁという感覚を持った。


やはりコンサートホールや教会の音響設計は基本は反射系の設計なのかもしれないが、適度に吸音するというファクターもある程度、考慮しないといけないものなのかな、とも思った。


教会の音響設計では、やはり司教の説教、お話が信者によく明瞭に聞こえないといけないというのも大事な要素だと思うからである。


おそらくこの音楽堂の空間は、教会のミサのためではなく、純粋に最適な響きでオルガンを鳴らす、オルガンコンサートを開催するための空間であると思うので、これはこれでベストソリューションということなのだろう。


とにかく自分がいままで経験したことがないような想像を絶する音響空間であった。


つぎにパイプオルガンの音色の印象であるが、最初にイタリア ルネッサンス様式のパイプオルガン。これはコンサートホールにあるような大オルガンよりは小型であるので、それなりのボリューム感で鳴っていたが、なかなか音色のパレットとしてのカラーが基本的に明るくありながら低音などの重厚感もしっかり聴こえてくるバランスのいい音であった。帯域バランスは素晴らしいと感じた。自分がいままで聴いてきたパイプオルガンの音色の聴感上の感覚の差異はあまり感じず、とても伝統的で楷書的ないい音色だったように思う。


音像もキリッと明瞭で音場も広い。
重厚感はかなりある。
いいオルガンだなぁと感心しながら聴いていた。



それに対し、バロック様式のパイプオルガンは、とても可愛らしい音。小ぶりな筐体にふさわしいとても優しくて可愛らしい音であった。非常に質感が柔らかくて、ソフトな音の感触で優しい音であった。とてもいいオルガンだと思いました。聴いていて、かなり癒されます。いいオルガンですね。またあらたな宝物を持たれましたね。



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永田音響設計の永田穂さんがイタリアの小さな教会をイメージして設計して「50席。これが最高のぜいたくです」と言って音響設計した軽井沢ヴィラ・セシリア音楽堂。(c)朝日新聞社


それは、軽井沢のこの自然豊かな別荘地に、自分が追求する音響空間をまず拵え、そしてその空間に最適な音響を計算しつつ、その空間専用の新規のパイプオルガンを特注制作で造ってしまう。。。オルガニストとしても最高の夢を叶えた。


そういう真実が隠されていたとは夢にも思わなかった。


世の中には本当にすごい、そして素晴らしい人がいるものなんだな、と驚くばかりである。


ぜひ次回の秋のパイプオルガンコンサートにも馳せ参じたいと思っている。


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軽井沢ヴィラ・セシリア音楽堂 春のパイプオルガンコンサート 2021
2021年5月4日 14:30~15:30

主催・お話・オルガン:和田純子


G.ピッキ(1571-1643)
トッカータ ニ短調


W.バード(1543-1623)
ファンタジア イ短調


G.フレスコバルディ(1583-1643)
トッカータ 第11番


F.C.de アラウホ(1584-1654)
ティエント 第53番
カンツォン「陽気な羊飼い」


JP.スヴェーリンク(1562-1621)
トッカータ 第18番 ハ長調


S.シャイト (1587-1653)
「我はかくも傷ついて」によるファンタジア


M.プレトリウス (1571-1621)
賛歌「日の出づる処より」


J.S.バッハ(1685-1750)
「ああ哀れな罪人なる我を」
トッカータ ヘ短調





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