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DGの新譜:ヒラリー・ハーンのパリ所縁の新録音 [ディスク・レビュー]

待望のヒラリー・ハーンの新譜が登場した。録音時期は2019年の2月と6月のようなので、翌年2020年には世に出したかったものを、突然のコロナ禍で編集作業もままならず、ずっと寝かせておいたものなのであろう。ようやく機が熟して、お目見えとなった。



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パリ~プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番、
ショーソン:詩曲、ラウタヴァーラ:2つのセレナード 
ヒラリー・ハーン、M.フランク&フランス放送フィル



ジャケットがとても素敵だ。


ハーンのいままでのアルバムの中でも1番とも思えるほど、色彩華やかでとても素敵だと思う。


もちろんアナログも購入。


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最近、自分の新譜の購買パターンとして、CDだけでなく、もしアナログが併売されているなら、かならずLPもセットで買うようにしている。いまコツコツ、アナログ・コレクションをしていますので。いっぺんにコレクションを増やすことはできないし、こうやって徐々にですね。


アルバム・タイトルは「PARIS」。


ハーンのパリ所縁の想い出に纏わる曲を集めてひとつのアルバムにしていこう、というコンセプトのようだ。


その1番の大きなトリガーとなったのは、ヒラリー・ハーンが長年パリで共演してきた家族のようなオーケストラ、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団。ハーンは、ミッコ・フランクが首席指揮者を務めるこのオーケストラのアーティスト・イン・レジデンスを2018~19年に務めており、そんな縁でハーンが熱望した新録音だったようだ。


フランス放送フィルと言えば、自分はなんといっても忘れられないのは、2016年に新ホールとしてパリにオープンになった彼らのフランチャイズ・ホール、オーディトリアム。(Auditorium de Radio France)


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最新のワインヤード型のホールで、全体が木目調の木のホールである。
きっと暖色系で、とてもスケール感の大きい暖かい響きのホールなのであろう。
写真から、そんなイメージがする。


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フランス国立放送局 Radio France はセーヌ川沿いに建つ円形の建物を本拠としている。この建物は Maison de la Radio(ラジオ館)と呼ばれ、番組の録音スタジオの他、コンサートホールも兼ねる Studio 104 (ステュディオ・サンカトル)とクラシック音楽ホール である Auditorium(オーディトリアム )などを擁し、パリ西部の重要な音楽拠点となっている。


また、建物の中心部は22階建ての高層タワー建築 で、最上階のレセプションホールからは、パリが360度、一望に見渡せる。


さらに付属の音楽機関として、フランス放送交響楽団、フランス国立管弦楽団、フランス放送合唱団、フランス放送少年少女合唱団がある。


これらのオーケストラ・合唱団によるコンサートはラジオ放送を前提としており、ライブ放送の他、音源・動画収録や、レコーディングなどが行われている。


今年に入って、この本拠地の建物の名称をこれまでの Maison de la Radio (ラジオ館)から Maison de la Radio et de la Musique (ラジオ・音楽館)に変更しているようだ。


とにかくRadio Franceが、ラジオ放送をメインとして、番組の録音スタジオ、そしてコンサートホールまでをも持っている、彼らの本拠地・複合施設が、このMaison de la Radio et de la Musique であって、2016年にスタートしたのである。


これは当時とても話題になっていて、自分は2016年にパリに行ったときに、同時期に新ホールとして話題になっていたフィルハーモニー・ド・パリのほうに、とてもご執心で、まずはそちらのホールを探訪したいと思い、その願いは実現した。


そしてRadio Franceの新ホールもぜひ行きたいと思っていたのだが、公演日程が旅程と合わず断念したのであった。 これは悔しかったねぇ。いまとなってはずいぶん後悔しています。


またいつでも行けると思っていたので、こんな世の中になってしまい遠い世界になりにけりである。


2020年春のパリのロックダウン以来、他の劇場やコンサートホールが閉鎖される中、ここでは無観客でありながら多くのコンサートが開催され、内外のアーティストたちの活動の維持に貢献してきたそうだ。


最近では、パリ・オペラ座と共同で、ワーグナーの「ニーベルングの指環」の全曲演奏の録音を行い、年末年始にFrance Musiqueで放送をしたそうである。


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フランス放送フィルのアーティスト・イン・レジデンスを2018~2019年と2年間も勤め上げたハーンの切なる願いで、彼らと、このパリ、Radio Franceの新ホールでのセッション録音が実現した、といういきさつのようである。


2年間、まさに自分のホーム・グランドのように演奏をしてきたこのホール。響きの捉え方ふくめ、自分の勝手知ったる馴染みの空間の中で、さぞかし思いの丈をつくしたことであろう。


アルバムに格納されている曲も、もちろんそんなハーンのパリ所縁の想い出の曲ばかりである。


自分が1番痺れたのは、もちろん間違いなくプロコフィエフ ヴァイオリン協奏曲第1番。


プロコフィエフのコンチェルトは、とても通好みというか渋いマニア好みされる曲で、日本で開催されるヴァイオリニストのコンサートではあまりお見かけしませんね。


大衆性や集客にあまり向いていない曲というようにプロモーターの方々に思われているのかもしれませんね。プロコフィエフのヴァイオリン・ソナタのほうはとても有名なので、室内楽ではよく体験している記憶があるのですが、コンチェルトのほうは、なかなか自分の記憶の中でもあまり覚えていないです。


第1番は、プロコフィエフ最初のヴァイオリン協奏曲。


初演は1923年10月18日にパリのオペラ座にてマルセル・ダリウーのヴァイオリン独奏とセルゲイ・クーセヴィツキー指揮パリ・オペラ座管弦楽団による。初演時にこそ成功しなかったものの、今日ではプロコフィエフの協奏的作品の中で最も愛好される作品の一つになっている。


プロコフィエフは、ロシアの作曲家でありながら、このヴァイオリン協奏曲第1番は、パリで初演なのである。この曲はハーンの大のお気に入りの協奏曲。いままで最も多く演奏してきた作品のひとつだそうで、録音の最適な共演者とタイミングを待ち続けていたのだそうだ。


いま、まさにここに祈願成就で、もっとも録音パートナーとして共演したかったM・フランク&フランス放送フィルで、しかもRadio Franceの新ホールで録音。


このアルバムがパリ所縁であることを、すべてのテーマにしていることがよく理解できる。自分は、このプロコフィエフのコンチェルト第1番かなり好きである。自分の好み、嗜好にかなりあう。他のヴァイオリニストでは、リサさま、アラベラさんが録音していますね。自分の愛聴盤でした。


3楽章とも全部好き。第1楽章は、音楽の造形として1番バランスが取れているように思え、序奏から難技巧のパートなど、とてもバラエティ豊かな構成で、自分はよくできている楽章だと思う。


第2楽章は、冒頭から超絶技巧のオンパレードで、これいったいどうやって弾いているんだろう?、じっさいの実演に接してみて、弾いているところを拝見したい、と常々思っている楽章である。音を聴いていても、そのスリリングで綱渡り的な難技にドキドキしてしまうのである。


第3楽章は文句なく、最大の山場。先の1楽章、2楽章のプロセスを経て、ここに来て最高潮に盛り上がる。オーケストラとの掛け合いがじつに素晴らしい。はじめてこの曲を聴く人は、まずこの第3楽章の旋律が耳に残るのではないだろうか?


この曲、全体を通して、瞑想的で白昼夢のような不思議な抒情性に溢れていて、とても不思議な感じの曲である。そんな構成の中に、ヴァイオリニストとしてはいろいろな技巧が必要で試される、そんな難易度の高い曲のように思う。


ハーンの奏でるプロコフィエフ ヴァイオリン協奏曲第1番は、剃刀のように切れ味が鋭く、弾力性に富んでいて、その起伏の激しさ、そしてこの曲がもつどこか陰影感のある影みたいなものも見事に演じ切っている名演であった。


この曲の自分の大事な録音コレクションのひとつに加わった。

この曲、ぜひ実演に接してみたいという気持ちを新たにしました。
日本のプロモーターの皆様方、よろしくお願いします。(笑)

ぜひ、ヒラリー・ハーンの実演で、体験してみたいと思います。



ショーソン詩曲は、エルネスト・ショーソンが作曲したヴァイオリンと管弦楽のための作品。原題そのままで「ポエム」とも呼ばれる。ショーソンの作品中でも著名な曲である。


パリ出身のショーソンによる神秘的で瞑想的な「詩曲」の初演は、パリでイザイによって行われた。この曲はイザイに献呈されたショーソンの代表作である。


自分は、このショーソン詩曲は、日本イザイ協会主催のイザイ音楽祭ジャパン2018で聴いたような記憶がある。東京文化会館小ホールで。


ヒラリー・ハーンの師ヤッシャ・ブロツキーはイザイの最後の弟子で、彼女はこの作品に自身の音楽的なルーツとして、個人的な繋がりを感じずにはいられなかったようだ。


ハーンとイザイは繋がっているのである。


これもパリ繋がりで、彼女がどうしてもアルバムに入れておきたかった曲。

この曲は、まさに”ポエム”。

本当に美しい。
どこか切ない歌い上げるようなメロディが美しすぎる。
泣きの旋律ですね。
瞑想的でさえある。


大変失礼ながら、イザイ音楽祭のときは、ここまで美しい曲だとはあのときは認識していなかったような。。。
なぜなんだろう?


違いは、はっきりある。


イザイ音楽祭のときは、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロとピアノの室内楽ヴァージョンであった。でも今回の新譜は、オーケストラ版のコンチェルトなのだ。


ハーンの切ない歌い上げるような泣きのヴァイオリンの旋律を、オーケストラによって感情を煽りたて、その切なさをさらに助長する。かなりドラマティックで劇的な仕上がりになっている。


ショーソン詩曲がこんなに美しい曲とは、いままでまったくわかっておらず。
悔しいから、もう一回、あの室内楽ヴァージョンを聴いてみたいです。


あのとき気づかなかったのは、難解なイザイの音楽の世界に埋もれてしまった感じだったのかな。お恥ずかしいです。この曲は、本当に美しいです。



最後のラウタヴァーラ:2つのセレナード。
まさにヒラリー・ハーンのために書かれた曲なのである。


フィンランドの作曲家ラウタヴァーラ(2016年に故人)とは、ハーンの2013年のアルバム「27の小品~ヒラリー・ハーン・アンコール」で「ささやき」という楽曲を委嘱・演奏したのが最初のコラボレーションであった。


また、今回のフランス放送フィルの指揮者ミッコ・フランクは、ラウタヴァーラの親しい友人であり、その作品の理解者として優れた演奏家でもあった。


2014年にラウタヴァーラのヴァイオリン協奏曲を演奏した2人は、パリで初演するための新作協奏曲を委嘱することにしていたのだが、ラウタヴァーラの健康状態が良くなく、その作品はセレナードに変更された。


作曲家の死後、2曲目の途中までオーケストレーションがなされ、残りはピアノのスケッチがのこされた「2つのセレナード」が発見され、ラウタヴァーラの弟子である著名な作曲家カレヴィ・アホがオーケストレーションを完成させて、2019年2月に世界初演し、この世界初録音が行われた。


こういう経緯なのである。


まさに世界初演、世界初録音。そしてヒラリー・ハーンのためのセレナードなのである。


この曲ももともとパリで初演するために委嘱することになっていた曲なので、ハーンにとってそこはパリ繋がりでどうしても忘れられない、アルバムに入れておきたい1曲なのであろう。


ゆっくりと流れる大河のような美しさがあって、”セレナード”という言葉がとてもしっくりとくる落ち着いた曲である。全体を通して、ハーンの独奏が圧倒的な占有率をしめ、オーケストラが付き添うような形で進められていく。朗々と弦が美しい大河のようなメロディを歌い続けているのである。


う~ん、なかなか名曲で素晴らしい。

これもいつの日か、コンサートで実演できるといいですね。


さて、録音評のほうであるが、ひと言で云えば、とてもニュートラルで自然なサウンドであった。いつも意識する空間がそんなに広いという訳でもなく、音色が特別に脚色されているわけでもなく、あまり意識することなく、ふつうに聴けた。


生演奏を聴いているがごとく、とても自然であった。


優秀録音といわれる、いわゆるオーディオライクな音、オーディオマニアが喜びそうな化粧の厚いサウンドというのは、正直商売がてら、ついつい興奮してしまい、どうも落ち着いて聴くことが出来ないものだ。つねにアドレナリンが湧き出ているようなそんな興奮状態。


今回の録音は、そういう意識された良い音というよりは、ほんとうにごくごくとても自然。精神健康上にはいいサウンドであった。


あまりに録音がいいと、曲自体を鑑賞するより、その録音の方に精神が集中してしまう。今回は、とても自然なテイストなので、もう曲そのものの鑑賞にたっぷりと精神を集中させることができました。


今回はアナログの音に思いっきり反応してしまった。アナログの音はすごく良かったです。いつも自分はアナログは音像、F-レンジ、CDは空間、音場、D-レンジという使い分け、評価分けをしているところがあるのだが、今回のアナログの音は、すごい音の鮮度感、解像感が素晴らしくて、CDを凌駕しているところが多かったのを認めざるを得なかった。



ヒラリー・ハーンの今回の新譜は、彼女のいままでのいわゆる型にはまったステレオタイプの選曲、アルバムコンセプトとはちょっと一線を画す彼女らしい意欲作だったと言えるのではないだろうか。自分には聴き応えがあったし、鑑賞し甲斐があったし、とにかく非常に感心した作品だったと思うのである。




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