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諏訪内晶子のJ.S.バッハ無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲 [ディスク・レビュー]

諏訪内晶子さんがデビュー25周年記念を祝して、満を持してリリースしたのが、J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲。



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無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全曲 

諏訪内晶子【初回限定盤】(2SACD)





ついにきたか~という感じである。やっぱりヴァイオリニストにとって数多あるレパートリーの中でバッハの無伴奏ソナタはどうしても避けて通れない、いつかは必ず向かい合わないといけない作品のような気がする。


最近話題になったバッハの無伴奏ソナタ録音といえば、イザベル・ファウストやヒラリー・ハーンがとてもいい録音で素晴らしい作品だった。今年に入ってレオニダス・カヴァコスもバッハの無伴奏ソナタをリリースする予定とのことで、一流のヴァイオリニストのひとつの登竜門のような存在の作品だと思う。


自分は、この曲を聴くたびに、いつも思うことが、バッハの無伴奏ソナタほど、ヴァイオリン奏者にとって苦しくてつらい曲はないんではないか、と思うことだ。


この曲を聴くたび、必ず思うことである。


ヴァイオリン一挺で、まさに裸一貫という感じで誰も守ってくれる人はいない。自分1人、自分の弾く音と延々と長時間対峙しながら、物語を作っていかないといけない。その緊張感の持続、ギリギリの線で続く精神状態は、まさに42.195kmのフルマラソンの世界のようだと予想するのだ。


特にレコーディングもさることながら、ステージ上での実演、生演奏となると、その奏者の苦しさたるものや大変なものであろう。ステージ上で唯1人、スポットライトの中、大勢の観衆の視線をその一点に集め、自分の奏でる音だけで、延々と物語を語り継いでいかないといけない。


まさに苦行のなせる業だと思うのである。


超一流のヴァイオリニストだけに許される特権、いや彼らの実力を以てだからこそ、初めて実現可能である。そんな曲なのだ、バッハの無伴奏ソナタという曲は。


自分がこの曲に長年抱いているイメージである。



だから今回の諏訪内さんの新譜は、ついに来たか~という感じで、まさに満を持して・・・と思うのである。


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諏訪内晶子さんは、もうご存じ、1990年のチャイコフスキー国際コンクールで史上最年少で優勝してから演奏家人生が一変した。コンクール直後にはすぐには演奏活動には入らず、その後もジュリアード音楽大学、コロンビア大学に留学して勉強したり、CDデビューはその6年後の1996年からだったりしたので、コンクール優勝に影響されることなく、慌てず焦らずかなり慎重に熟慮しながら演奏家人生を歩まれてきた。


最近も国立ベルリン芸術大学の学術博士課程を修了し、ドイツ国家演奏家資格を取得した。


本当にもう凄いというしかない。本当に勉強家で、常に自分を高みに置く意識の高い人。本当に芸術家の鏡のようだと思います。


正統派の美人で、これだけの経歴だとしたら、またイメージフォトなどの売り出し方もちょっと冷たいクール路線な印象を持たせるけど、テレビのインタビューなんか拝見すると、なかなか優しそうな感じで、ホッとしたりする。


そんな冷たいお人形さんではなく、ふつうに暖かい人柄なんだな、とホッとしたりします。


レコード会社の諏訪内さんのジャケット写真や、プロフィール写真は、じつは自分は昔からあまりいい印象がなくて、せっかくの素地がすごい美人なのに、その素をうまく表現してあげれていない、と感じることが多かった。


どきつい化粧を施したり、髪形ふくめ斬新路線を狙っているのだろうけれど、それが諏訪内さんの素の美しさをちゃんと生かしてきれていない、と思うこと然りだった。


そんな余計なことしなくていいのに・・・。かなり不満でした。勿体ないな~とずっと思っていました。


そんな余計なデコレーションを施さなくてもいいから、もっとご本人の持っている素の美しさをそのまま出すシンプルなプロモーションの仕方をしてくれないかな、とずっと思っていたのである。


自分がフォト関係のプロデュースをしたいと思っていました。(笑)すごい損をしているな~とずっと自分が感じていたこと。


でも最近のフォトはその辺がもう格段に上達してきて、すごい自分の思うようになってきて、すごくいいと思います。ようやく満足できるようになった。素が美人の方は、余計なことをしないほうがいい、ということをみんな分かってきたんだと思います。


あと若いときは、どうしてもクールで格好いいイメージで売り出そうとするから、どうしてもそっち系のシルエットになりますが、経年を重ねていくと、笑顔がみれるのがいいですね。やっぱり女性の笑顔はいいです。


これは自分の持論ですが、女性は若い頃の美しい格好良さよりも、経年たってからの歳の年輪を感じさせる人間味あふれる笑顔のほうが全然素敵だと思います。


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自分は諏訪内さんの実演は2004年頃から通うようになって、結構な回数、体験させてもらいいろいろ想い出あります。でもひとつのきっかけとなったのが、2007年の神尾真由子さんのチャイコフスキー国際コンクールの優勝だったかな。いまではコンクールで日本人が優勝や入賞することは、至極当たり前のすごい時代になりましたが、当時は大変なセンセーショナルな事件であった。


神尾さんの優勝はまさに大事件で、そこでメディアは、”諏訪内に神尾”というカップリングで結構夢のコンサートを開いていたりした。それに結構便乗して通った記憶があるんですよね。


そのときに、神尾さんはもちろんのこと、改めて諏訪内さんの良さを実感するというか、実演に接することが多くなり、そこから通うようになった、という記憶がある。


諏訪内さんは正統派の美人でスマートでステージも静的。神尾さんは誘惑的な魅力でステージは動的。そんな対比を楽しんでいたりした。


その2007年以降からコンスタントに諏訪内さんのコンサートに通うようになった、と思います。


ストラディヴァリウスのドルフィンを愛機に様々な演奏を体験しました。


最近の公演で印象深かったのが、2021年の2月の東京芸術劇場でのN響とのベートーヴェンのコンチェルトだったであろうか。母親の病気、介護の問題で精神状態がどん底にあったとき、このコンサートに出かけて、一気に正気に戻った。自分のペースを戻すことができた。


忘れられないコンサートになりました。


諏訪内さんの演奏は、いろいろあるから総じてひと言で言い切ることは難しいが、やはり音程がすばらしく良くて精緻で、とてもスマートな演奏をする人。でもそう思わせる中にも、実はご本人の中にはとても熱いパッションがあって、ときどきこちらが驚くほど情熱的な演奏に出会うこともある。そんなパターンの繰り返しだろうか。当然だが、曲に応じてその演じ分けが素晴らしいと感じることが多い。


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自分のクラシック人生の中で、これはどうしても避けて通ることができないと思っているのが、国際音楽祭NIPPON。諏訪内さんが芸術監督を務める音楽祭だ。いつかこの音楽祭の公演に行ってみたいとずっと思っていたのだが、なかなかチャンスがなく、ようやく今年行くことに決めた。


東京オペラシティで、バッハ無伴奏のリサイタルを2夜、そして尾高忠明&N響とのコンチェルトを1夜。合計3夜のコンサートを、この国際音楽祭NIPPONとして体験しようと思っています。


もともとこの音楽祭には固定された開催地というものがなかった。最初の頃は結構地方中心でやることが多く、東京でやることがあまりなかったので、そういうところも行けなかった理由であったと思う。



「長く活動して来て、どこかの時点で音楽界に恩返しをしたいと思って始めたのがこの音楽祭。」

「音楽を届けるべきところに継続的な支援をしたい」


第一線の指揮者やオーケストラと共演を重ねながらも、「長く活動を続けるには演奏がうまいだけでは足りない。総合的な力がなくては」との思いを常に抱いてきた。


2013年、東日本大震災もきっかけとなり、同音楽祭を始めた。「次世代のために何ができるのかと考え、私がいいと思う音楽を伝えていくことだと思った」。


これまでも東北の被災地を訪れ、2017年も岩手県で演奏した。共演者には人脈を生かし、まさに諏訪内晶子企画・マネジメントによる全面諏訪内カラーの音楽祭だ。


日本の大学生と室内楽を演奏したり、マスタークラスを持ったり。


アンサンブルとマスタークラスで次代を担う音楽家を支援していく。


ただ単に自分が演奏がうまく弾けるだけではなく、演奏家人生として、若い世代に伝えていく、音楽業界のマネジメント・企画を通して自分でモノを造っていく。。。そんな諏訪内さんの新しい人生のチャレンジだ。


そんな音楽祭をぜひ体験できるのは、本当に楽しみである。いままさにオミクロン株が猛威を振るい、つぎつぎ演奏会が中止になっているけれど、音楽祭の開催される2月、なんとか無事開催されるように祈っています。


楽しみです。ここはどうしても自分が抑えておかないといけないポイントなのです。



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さて、めずらしく音楽の友も購入して(笑)、今回の新譜について諏訪内さんのインタビューを読んでいる。そして今回のJ.S.バッハ無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲を聴き込んでいる毎日。


まず大きな変遷は使用ヴァイオリンの変更だ。長年30年に渡って、愛用してきたストラディヴァリウスのドルフィン。日本音楽財団に返却することとなった。諏訪内さんと言えばドルフィンだったから、自分もずいぶん驚いた。


代わりの新しい楽器との出会い。1732年製グァリネリ・デル・ジェズ”チャールズ・リード”


ストラディヴァリウスで演奏していて、そこからデル・ジェズで演奏することはすごい難しいことだったそうだ。楽器自体もドルフィンより小振りで、デル・ジェズはそもそも楽器から奏者が音を導いてあげないと鳴らない楽器なのだそうだ。


ストラドにはもともと完成された楽器の音というのがあって、それを邪魔しないように音を引き出していくという感じなのだが、デル・ジェズはもっと楽器の音を掘り起こすような感じだと仰っている。


諏訪内さんが2つの楽器を弾いてみてのヴァイオリン奏者としての体感の印象だ。


でも今回の新しい楽器は、倍音がとても豊かにでるとてもリッチな音を奏でてくれるようだ。


今回のバッハの無伴奏ソナタの録音は、この新しいデル・ジェズによる初めての録音ということになる。


自分は、諏訪内さんがこの新しい楽器、デル・ジェズを弾いて演奏した生演奏を2回くらいホールで聴いたことがある。つい最近はあの東京芸術劇場でのN響とのベートーヴェン・コンチェルト。そして1番最初は、もっとそこから1年間前くらいだっただろうか・・・、なんの公演かは覚えていない。でも諏訪内さんがドルフィンを返却して、新しい楽器で弾いている、ということで話題になった演奏会だった。


そのとき、自分の印象は、モダン楽器にしたのかな?とにかく、すごく鳴りが素晴らしくて、朗々とホール内を響いている感じで、モダン楽器かな~と思っていたのだ。その当時。


それが、デル・ジェズとの最初の出会い。そんなに音を引き出すのが難しい楽器とは思ってもいませんでした。でも評判通り、じつに倍音豊かな響きの芳醇なヴァイオリンだと思いました。



さて、今回のバッハ無伴奏ソナタの新譜。初回限定盤としてSACD、通常盤としてHQCDで用意されている。


自分はもちろんSACDを購入した。SACDは超デラックス仕様だ。ディスクがグリーン・カラー・レーベルコートで、特製スリーブケース付だ。特製スリープケースというのはいわゆるプラスティックケースをさらに上包みする紙ケースのことだ。


この特製スリープケースのジャケット写真と、プラスティックケースのジャケット写真が種類が違うのだ。2種類楽しめるようになっている。


まず、演奏評、そして録音評といきたいところだが、いきなり録音評からにさせてほしい。


とにかくめちゃめちゃ音いいです。

録音がかなりいいです。


欧州のPENTATONE,BIS,Channnel ClassicsとかはSACDマルチチャンネルだけれど、日本発のSACDは2chステレオが多いですね。しかも諏訪内さんのレーベルはDECCAだから、SACD自体珍しい。


最初自分は2ch録音だろうと思い込んでいて、SACD 2chで聴いていて、それでも、あまりにいい音なので、驚いていたのだが、さらにこのディスクがSACDマルチチャンネルであることを知って、それまたえらく驚いた。


DECCAがSACD、しかもマルチチャンネルを採用してくれるなんて!嬉しすぎる!


よくスペックや理論などの机上での話で、理詰めで音質の良さ、良くないを説く方がいらっしゃるが、自分は間違いだと思う。オーディオはオーディオ述語を使って書こうと思えばいくらでも装飾できてしまうし、理論だけで理詰めで考えてもそうじゃないと思う。


やっぱり実際耳で聴いてなんぼの世界なんだと思う。


じっさい耳でじかに聴けば、マルチチャンネルの優位性はあきらかだ。広がるサウンドステージ、圧倒的なダイナミックレンジ、定位感、すべてにおいて優位性がある。



理詰めではすべて解決しないと思う。


とにかく音がいい。エンジニアは、フイリップス時代からの永遠のパートナー、ポリヒムニアのエルド・グロート氏。さすがの仕事と言うしかない。


オランダのバーンのホワイト・チャーチ教会で録音したそうで、天井の高い内装が木質の空間だったそうだが、そんな残響リッチな響きがよく表現されている。


なんかすごい響きの滞空時間が長くて、いかにも教会で弾いている感じである。あと、これは自分の聴いた感覚だけれど、それだけではないと思う。教会空間そのままの生演奏の音だけじゃないと思う。エンジニアリング的に処理を施していると思う、間違いなく。エコーとか絶対にやっている音である。


オーディオ的にすごく上手に化粧(薄化粧です)を施された作られた人工美の優秀録音だと思います。じつに素晴らしい・・・


この録音を聴いたら、もう過去のバッハ無伴奏の優秀録音のディスクは全部遠い彼方に行ってしまいますね。


バッハ無伴奏ソナタ史上最強の優秀録音と断言して間違いないと思います。同じ曲を演奏しているのに、いままでまったく見えなかった新しい景色が突然見えてくる。


やはり新しい録音は素晴らしい!


演奏は諏訪内さんの場合は、もう言わずもがなである。ずっとクールな演奏態様だと思っていたが、非常に力強く、メリハリが効いていて、もうヴァイオリニストとして解脱した境地とも言える素晴らしさだった。圧巻であった。


ちょっと近り寄りがたい神の領域であるバッハ無伴奏ソナタの世界が、かなり身近に感じたことは確かです。この曲をこんなに何回もリピートして聴いたのは初めてかもしれない。


やっぱりそれだけ録音がいいのが大きな要因。この要素って本当に大事なことだなぁ・・・。


国際音楽祭NIPPON 2022で、この諏訪内晶子さんのバッハ無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲。2夜に渡って東京オペラシティにて実演に接します。


自分のクラシック音楽鑑賞歴の中で輝かしい金字塔になることは間違いないでしょう。







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