人生まだこれから輝くに違いない [国内クラシックコンサート・レビュー]
今年も東京・春・音楽祭にやってきた。小澤征爾さんの「エフゲニー・オーネギン」をやっていた東京オペラの森の頃からだから、東京春祭の時代の歩みとともに自分もお付き合いしてきた自負がある。
この春の季節になると、東京文化会館にピンクの意匠が並び、そして上野駅の駅ナカのたいめいけんのオムハヤシを食べることで、春の訪れを肌に感じるのである。
今年は川本嘉子さんのブラームス室内楽からスタートである。このシリーズが開催されたのは2014年からのスタートであろうか。今年で9年目である。自分は2015年から通い始めているので、まさに8年間の皆勤賞である。
本当にしみじみ感慨深いものがある。よく通ったなぁという。こういう想いは、短期間じゃ無理である。1年1年の地道な積み重ねがないと、成り立たない気持ちなのである。
最初の頃は、川本嘉子さんに近い小澤さんのメンバーで編成することが多かったが、年々年を重ねるごとに、バラエティに富んできて、新しい交流がどんどん生まれ新鮮で多彩なメンバーで彩られるようになってきた。
1年1年、よく記憶に刻み込まれて、昨日のごとくよく覚えている。
9年間、同僚世代とは、一緒に競い歩むように、大先輩には、尊敬と敬う気持ちで接し、若い世代には大きく暖かく受け入れる。この9年間、様々な世代のゲストを受け入れつつ、このシリーズを育んできた川本嘉子さんは、いま、ひと回りもふた回りも器の大きい演奏家になられたのではないのだろうか。
9年間の歴史とともに、今日の公演を聴きながら、いままでの想い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡りながら、自分はまさにそんなことを考えていた。
今年は、”若い”世代である。いま新進気鋭の若者、これからの日本のクラシック音楽界を背負って立っていくであろう若い世代の音楽家に囲まれていた。
辻彩奈、川本嘉子、向山佳絵子、佐野央子、上野星矢、荒木奏美、三界秀美、皆神陽太、福川伸陽、阪田知樹。まさにフレッシュで、眩しかった。
若い世代は、観ていて、聴いていて、とても将来の見通しが明るい気持ちになる。フレッシュなブラームスである。
ブラームス・セレナード第1番とブラームス・ピアノ四重奏曲 第3番。どちらも素晴らしかった!
このブラームス室内楽は、主に弦楽器中心に構成されることが多くて、あってもピアノ。木管や金管の管楽器が構成に入るのはとても珍しい。自分は過去にあまり記憶にない。
ブラームス・セレナード第1番は、そんな管楽器がとても大活躍する素晴らしい曲だった。オーボエが、クラリネットが、ホルンが・・・これに様々な弦楽器が加わり、九重奏なのである。自分には未体験な音のパラダイムにとても幸せな気分になった。それでいて、あのブラームス特有の旋律を奏でる。こういう弦楽器、管楽器含んだある意味小編成のオーケストラともいえる新しいブラームス室内楽のスタイルだな、と感じた。聴いていて楽しかった。
後半のブラームス・ピアノ四重奏曲 第3番は、従来のスタイルを踏襲した伝統的なアプローチだと思った。自分が9年間聴いてきた伝統の演奏形式のスタイル。ブラームスのあの美しさ満載で、圧巻だった。
ブラームスの美しさは、わかる人にはわかってもらえるんですよ。自分も9年間通いつめて、このブラームス美学というのを、ここでずいぶんと勉強させてもらったと思う。
まさに終演後、ブラボーであった。
今年の東京・春・音楽祭のブラームス室内楽も素晴らしい感動で終えることができた。音楽の神様に感謝である。
9年間、同僚世代とは、一緒に競い歩むように、大先輩には、尊敬と敬う気持ちで接し、若い世代には大きく暖かく受け入れる。いま若い世代の音楽家に囲まれて、先導して頑張っている川本さんを拝見していて、自分に期するところがあった。
それは自分も50歳代後半に差し掛かり、最近老け込み発言が多くなってきたが、今の年齢は、男にとって一番働き盛りで、油の乗っている時期なのではないか。仕事、プライベートと人生、自分なりに頑張ってきたと思う。後の世代に伝えること、そしてまだまだ老け込む年齢じゃないと思い直した。
世代的に近い(失礼)川本さんが頑張っている姿を見て、奮起したのだった。
自分はいまの年齢に自分の人生もそろそろ終わり。活躍はもう終わりであとは隠居老人の世界が待っているのかななんて漠然と考えていたことがあった。そこには未来を見通せないなんともいえない閉塞感が漂っていた。
自分なりに一緒懸命生きてきて、公私ともに、世界が大きく広がってきた。いまの年齢が一番世の中のことがわかってきて、いざとなれば実行に移すことも可能な年代。50歳代後半は、男にとってまだまだ華の時代なのだ。
次の世代に伝えること。少しでも自分の体験談がお役に立てれば、といつも思いながら書いているのだが、あまり役に立ってないか?(笑)
歳をとっていくと、人間ってどうしても自分の考えに固執していく傾向にあって、それだと、そのうち誰にも相手にされない頑固爺になってしまいます。(笑)
門戸を広げて大きく包み込む、受け入れることも肝要であると思う。
そんな寄る年波に陰鬱となっていた昨今であったが、男にとって、いまの年齢こそがまさに働き盛りで、輝いているときではないか、と一瞬でも思ったのだ。
具体的な実現の保証はまったくないけれど、気持ちだけでも一瞬でもそう思えたのは、とても有意義だったのではないか、と思う。
コンサートに行く前は、まったくそんなことはこれっぽっちも考えたことはなく、演奏中にまさか自分の年相応の振舞や心構えについていろいろ考えさせられることになろうとは思ってもいなかった。
まったくの想定外のできごとであった。
(C)東京・春・音楽祭 Twitter
終演後の記念撮影。鈴木会長も入ったレアなショットとなった。ご覧のように今年は”若い”がアピールであった。
東京・春・音楽祭2022 ブラームス室内楽
2022年3月26日(日)15:00開演。
東京文化会館小ホール
ブラームス(B.オスグッド編):セレナード第1番 ニ長調 op.11(九重奏編)
ブラームス:ピアノ四重奏曲 第3番 ハ短調 op.60
ヴァイオリン:辻彩奈
ヴィオラ:川本嘉子
チェロ:向山佳絵子
コントラバス:佐野央子
フルート:上野星矢
オーボエ:荒木奏美
クラリネット:三界秀美
ファゴット:皆神陽太
ホルン:福川伸陽
ピアノ:阪田知樹
2022-03-27 00:04
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