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伝説は受け継がれていく。阪田知樹 ラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会 [国内クラシックコンサート・レビュー]

”伝説は受け継がれていく。”
                                                  
いまから12年前。2011年8月6日。サントリーホール。高関健指揮東京交響楽団で、清水和音さんがラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会をおこなった。
                                                 
当時は大変チャレンジングなマラソンコンサートということで、日本のクラシック界の話題をさらったし、この偉業は自分の心の中に深く刻まれている。
                                                 
いまでもはっきり覚えている。だから、自分にとって、ラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会といえば、もう清水和音さんの代名詞なのである。
                                                 
あれから12年後、
                                                 
阪田知樹という若者が、この偉業に再挑戦しようとしている。
                                                 
今年はラフマニノフ生誕150周年、没後80周年メモリアルイヤーということで、ラフマニノフの企画が各地でおこなわれていて、それに合わせるように、阪田知樹氏が、ラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会に挑戦しようというものである。
                                                 
1番→2番→4番→パガニーニの主題による狂詩曲→3番
                                                  
12年前の清水和音さんのときとまったく同じ演奏順番である。
                                                 
13:30開演で16:45終演。途中2回の休憩時間を挟むものの、3時間15分。
ピアノ協奏曲を1日で5曲演奏すると言っても、3時間15分で済むなら、意外やこんなんで終わってしまうの?とは思う。ラフマニノフのコンチェルトは、1曲が意外や1時間もかからない。30~40分ぐらいで終わってしまうものが大半だからであろう。
                                                 
とはいえ、演奏するピアニスト側からすると、難曲と言われているラフマニノフのピアノ協奏曲を1回のコンサートで全曲演奏するとなると、これはもう大変なことで精神力、体力の極限まで達することだと思う。
                                                  
本当にご苦労様である。
                                                
                                                
                                                 
2023年9月17日。同じサントリーホール。ここに日本のクラシック音楽界のこれからの次世代を担っていく若い世代の阪田知樹が、その偉業を達成した。大井剛史指揮・東京フィルハーモニー。
                                                  
                                                 
”伝説は受け継がれていく。”
                                                 
神話、伝説、偉業は偉大なる先人から若い世代へと受け継がれ、後世へと語り継がれていくのである。
                                                  
約束通り、この偉業達成にともない、自分は12年前にmixiのほうに上げた”清水和音 ラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会”の日記をブログのほうにもアップ、デビューさせたいと思う。この日記は、mixiのみの公開になっていて、ブログとして公開されていなかったのだ。
                                                  
阪田知樹氏の偉業を祝して、清水和音さんの日記を、阪田氏のコンサートレビューといっしょに併記してあげようと思うのである。
                                                  
これが、自分の阪田知樹氏の偉業に対する敬意と献呈である。
                                                  
清水和音さんの日記は、なにせいまから12年前なので、いま読み返してみると、自分の文章力やコンサートレビュー力の稚拙さが目立ち、お恥ずかしい限りである。改訂しようとも思ったが、やはりニュアンスが変わってしまうし、あの時のコンサートの印象はもう忘れかけていて、再レビューするほどの記憶がない。やはり一字一句変えずに原文のままアップする。
                                                  
                                                  
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阪田知樹
                                                  
愛知県名古屋市生まれ、横浜市育ち。5歳からピアノを始め、西川秀人、渡辺健二、パウル・バドゥラ=スコダ、アリエ・ヴァルディの各氏に師事。6歳より作曲を始め、音楽理論・作曲を高橋千佳子、永冨正之、松本日之春の各氏に師事。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校卒業後、東京藝術大学音楽学部器楽科を中退し、ハノーファー音楽演劇メディア大学[1]に特別首席入学。学士課程、修士課程ともに最優秀の成績にて修了。2021年現在第3課程(ゾリステン・クラッセ)に在籍。
                                                  
2015年CDデビュー、2020年3月、世界初録音を含む意欲的な編曲作品アルバムをリリース。内外でのテレビ・ラジオ等メディア出演も多い。
                                                  
2016年フランツ・リスト国際ピアノコンクール(ハンガリー・ブダペスト)第1位、6つの特別賞。コンクール史上、アジア人男性ピアニスト初優勝の快挙。「天使が弾いているようだ!」-Leslie Howard-と審査員満場一致、圧倒的優勝を飾る。
                                                  
2021年世界三大音楽コンクールの一つ、エリザベート王妃国際音楽コンクールピアノ部門にて「多彩な音色をもつ、知性派ヴィルトゥーゾ」-Standaard-と称えられ第4位。
                                                  
第14回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールにて弱冠19歳で最年少入賞。「清澄なタッチ、優美な語り口の完全無欠な演奏」-Cincinnati Enquirer-と注目を集める。
                                                  
イヴァン・モラヴェッツ氏より高く評価されイヴァン・モラヴェッツ賞、ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ、聴衆賞等5つの特別賞、クリーヴランド国際ピアノコンクールにてモーツァルト演奏における特別賞、キッシンゲン国際ピアノオリンピックではベートーヴェンの演奏を評価され、日本人初となる第1位及び聴衆賞。
                                                  
現在、国内はもとより、世界各地20カ国以上で演奏を重ね、国際音楽祭への出演も多数。
                                                  
                                                 
                                                 
                                                  
なかなか自分は若い世代の演奏家のコンサートに行くことは稀なのであるが、阪田知樹氏はぜひ行ってみたいとかねてから思っていた。なかなか知性派な人で、クラシックの音源などにも詳しくそこが自分のようなオーディオマニアと似ている側面を感じて興味を惹かれるきっかけとなった。
                                                  
また見た目のルックスもかなりのイケメンで、天が二物を与えたかのようなバランスのとれたピアニストのように感じていて、そこがさらに拍車をかけた。
                                                  
そこに、このラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会の企画を知り、これはいい機会、ぜひ聴きに行こうと思った次第である。
                                                  
昨日、このマラソンコンサートをコンプリートして拝聴した結果、自分が感じた阪田知樹氏の印象。
                                                 
これは凄いピアニスト!
                                                  
ということだった。
                                                      
とにかく想像以上に凄かった。
                                                
                                                
スマートで線が細い。いわゆる体育会系の爆演タイプではないけど、パワーはかなりある。指が高速で良く回って、打鍵も均等で精緻。走るタイプ。乗ってくると一気呵成に走るタイプ。やっぱり若い。とにかくエネルギーがすごい。瞬発力というかバネがあって、跳ね返ってくるようにリズミカルに弾いて、切れ味も鋭い。ここに若さを感じるなー。自分がいままであまり経験したことのないピアニストだった。(ふだんあまり若いピアニストを聴いてないので。。笑笑)
                                                   
反面、もっと柔らかいタッチがほしい。柔らかいのと強打腱とで緩急がつくといいな~。基本走るタイプなので、弱音、ピアニッシモのときに、もっと柔らかさがでて緩急がつくともっといいな~。いま細いけど、もっと体が大きくなってガタイがよくなってくると自然とそういう柔らかさも出てくるのかな~。
                                                  
・・・そう思って聴いていたところ・・・
                                                   
パガニーニ・ラプソディーの第18変奏や、ラフマニノフ3番の第2楽章などの緩徐楽章とか弱音再生部でも、ほんと信じられないくらい柔らかいタッチで、なんだこっちも得意なのか、と。(笑)
                                                  
もうパーフェクトじゃないか。すごい。弱点があまり見つからない。
スマートな細身だけど、パワフルでバネがあって、指が良く回る。そんな印象。
                                                 
いまの若い男性ピアニストは、みんなこんなにパワフルで上手いのか、そんな印象を抱いた。他の若い男性ピアニストもどうなのか、聴いてみたくなった。
                                                  
とにかく凄かった!
                                                  
ざっとラフに振り返って統括してみるとこんな感じのピアニストだった。
たった1日のコンサートでの印象だけど、ラフマニノフの難曲を5曲も連続で聴いたわけだから、たぶん本質としてほぼ間違いないであろう。
                                                 
パーフェクトなピアニストだった。
                                                  
まだ30歳だよ!(驚)
                                                 
たった30歳ですでにここまで完成されているのもどうか、と思うくらい。(笑)
若いうちは、まだもっとのびしろがあったほうが、将来もっと化ける可能性を秘めていて、将来大器となるケースもそのほうが育ちやすいということもある。
                                                  
でも阪田氏はおそらくいま現在でこれだけの完成度を誇っていても、さらに高みに向けて精進して上を目指していくに違いない。あくまでピアノが素人の自分の感想なので、もっとプロ目線で見れば、改善、精進していくポイントは何か所もあるのだろう。
                                                 
またラフマニノフだけでなく、いろいろな作曲家のレパートリーを増やしていくこと。これも大きなテーマでもある。ピアニストとしては、そのレパートリーから生涯自分はどういうタイプのピアニストとして、クラシック界に認知されていきたいのか。
                                                  
ショパン系なのか、現代音楽系なのか、ラヴェルやドビュッシーのようなフランス系なのか、あるいはモーツァルト、ベートーヴェンのようなきっちりと音階的な型のある古典派を中心にやっていきたいのか。あるいはラフマニノフのようなロマン派の得意なピアニストとして売っていきたいのか。。。はたまたあるいは全部が得意なオールマイティな巨人になりたいのか。。
                                                  
もういろんな選択肢が待っている。ピアニストとしていちばん重要なところは、やはりそこなのかな?これは膨大な時間がかかりますね。やっぱりピアニスト人生かけて一生涯研磨する内容だと思う。
                                                  
今年に入って、ものすごい公演量をこなしている。ピアニストとしての経験、場数、レパートリーをどんどん増やしている過渡期なのであろう。
                                                  
頑張ってほしい。
                                                  
それでは、今回のラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会。1曲ずつ簡単に感想を述べて振り返ってみたい。
                                             
                                          
                                                                                                           
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●ラフマニノフ ピアノ協奏曲第1番
                                                   
2番、3番はすごく有名だけど、自分はじつは1番もかなり大好きである。ラフマニノフらしいロマン的な旋律が随所に現れながらも、かなりアバンギャルドなコード進行というかカッコいいのである。この独特のカッコよさは2番や3番にはありませんね。1番だけが持っている魅力だと思っています。1番のときは、かなり連打のときの打鍵の響きが混濁する感じで、自分は最初座席による音響のせいかな、とも思ったが、つぎの2番以降は、そういう混濁現象は起こらなかったので、やはり1番特有の和音進行とか、そういう譜面上の構造の問題からそう聴こえてしまうのだろう。
                                                   
この1番の演奏で、初めて阪田知樹氏の演奏を聴いたわけだが、第一印象は走るタイプのピアニストだな、と感じたことだった。どんどん走るタイプ。若さあるゆえに、1度乗ったら怖いというか、どんどん走っていくタイプ。打鍵も強打腱でパワーがかなりある。スマートで線が細いんだけど、パワーはある。そんな印象を受けた。
                                                  
                                                 
                                                  
●ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番
                                                  
この曲は、あまりに有名なスタンダードな曲で、もう数えきれないくらいたくさんのピアニストの演奏を聴いてきたし(もちろん音源でも)正直この曲は誰が弾いてもあまり差を感じないというか、そのピアニストの力量を量るには難しい曲かなと感じる。
                                                  
ピアニストの力量を確認しながら聴くというよりは、どうしても曲自体を聴いてしまうのである。(笑)相変わらずいい曲だな~という感じで。この曲、ほんとうに名曲だと思います。阪田氏の2番は、非常にオーソドックスな解釈、アプローチで正統派の2番を聴かせてくれました。
                                                  
                                                  
                                                  
●ラフマニノフ ピアノ協奏曲第4番
                                                   
ラフマニノフのピアノ協奏曲の中でもっとも演奏される機会が少なく、ほとんどレアな曲。こういう機会じゃないとまず経験できないであろう。今回全曲のマラソンコンサートだから聴けたが、単品で披露されることはあるのだろうか・・・
                                                  
ヒット曲としての音楽の造形、型というか、そういう型がきちっと決まっていないような印象を抱く散文的な構造で、ラフマニノフらしいなあ~素敵なロマンティックな旋律だな~そういう旋律が現れたと思った途端、それが長続きしないのである。つぎにすぐにまた違う音型へと展開していく。つねに散文的で聴者がのめり込みにくい難しい音楽のように感じる。
                                                   
ヒット曲がなぜヒット曲なのか、というと、そこにヒットするだけに理由があって、コード進行やリズムの韻、全体としての音型にきちんと型があってそれが人の心を魅入るそういう魅力の秘訣がそこに全部詰まっているのである。リピートや繰り返し、サビの部分の登場とか、ヒットする曲は、もう音型のルールがきちんと型にはまっている。
                                                   
4番はそれがなかなか見いだせない難しい曲なのである。聴者がその型を見つけることが難しい。その型に安住することが難しい。つねに違う進行で新しい展開をしていく。そういう感じの曲である。ある意味ラフマニノフらしくないと言えばそうかな、と思う。
                                                  
反面、オーケストラとピアノの競演が非常にかけひきが面白く、丁々発止とでも言おうか、かなりお互い語り合いながら連携していってハーモニーを作っていくのが素敵だ。まるで現代音楽を思い起こさせるような旋律なのだけど、そこにピアノは連射、トリルのような速砲弾のような連打が連なり、ピアニストとしてはかなり腕の見せ場なのではないだろうか。こういう場面になって、自分は阪田氏はかなりテクニックのある上手いピアニストである、ということがここでようやく認識し始めた。
                                                  
正直言うが、1番、2番では初印象を掴むのが精一杯で、ピアニストとして上手いのか、凄いのかはよくわからなかった。また1番、2番はあまりに知っている曲、いろいろなピアニストの演奏で知り尽くしている曲なので、よく差がわからなくて、阪田氏の力量を見極めるのは難しかった。
                                                   
阪田知樹が本物である。かなり上手いピアニストである、と確信し始めたのは、この4番からである。4番のオーケストラとピアノの丁々発止のやりとりを聴いてから、こりゃテクニックのあるピアニストだな、とようやく確信を持てるようになった。
                                                   
滅多に聴くことのできないブラボーな4番であった。
                                                  
                                                  
                                                   
●パガニーニの主題による狂詩曲
                                                  
ごぞんじラフマニノフの大人気曲。パガニーニの主題を手を変え、品を変え、どんどん形を変えて24種類のいろいろなバリエーションで進んでいく変奏曲である。この曲はまた独特の美しさ、クセになる魅力的な旋律がある。第18変奏の一部分だけを捉えるのではなくて、いろいろ変貌していく主題の変奏を全体として捉えるというか、そこにこの曲を楽しむコツがありますね。
                                                  
阪田氏のパガニーニ・ラプソディーは、非常にスタンダードで、教科書通りの解釈。正統派の演奏を聴かせてくれた。最初の1番、2番、4番、そしてパガニーニ狂詩曲。ここまで阪田知樹のピアノは、パワフルで精緻というピアノ奏法の特徴はあるものの、音楽の解釈としては、極めてオーソドックスで保守的な伝統的で教科書通りの解釈をするピアニストだな、と感じた。独特の色付けとか独創性をアピールする、そういうピアニストではないと感じた。
                                                  
とくにこのパガニーニ狂詩曲で新たな発見だったのは、弱音、ピアニッシモのときの柔らかいタッチである。体の線が細くて、しかも走るタイプなので、どうしても強打腱連射だとすごいアピールするんだけど、静かな弱音再生の部分は、柔らかいタッチが必要になり、別の自分を披露する必要がある。自分は素人だからよくわからないけど、ピアノって早く速射砲のように連打弾くことよりも、スローな部分を柔らかく静かに弾くことのほうが技術的によっぽど難しいのではないか。まさに息を止めてこらえながら弾かないといけない。感覚的にそう思う。
                                                   
こういう弱音再生の柔らかいタッチが上手にできると、それが反動で強打腱の連打も生きてくるのである。逆に強打腱の連打だけだと一本調子のピアニストに感じてしまう。この緩急の差、柔らかいタッチ、そして一見ゴムまりのように弾む強打腱の連打、これを、いかにおたがい上手に披露できるのかが、上手いピアニストの完成された姿なのかなと思う。
                                                   
もっと体が大きくなってガタイがよくなってこれば、こういう柔らかいタッチも自然とうまくなっていくのだろう、と思いながら聴いていたのだが、このパガニーニ狂詩曲で第18変奏を代表とする散々出てくる弱音再生の部分では、ものの見事な柔らかいタッチを披露してくれて驚いた。なんだ!これも得意じゃん!という感じで。(笑)
                                                   
つぎのラストの3番の第2楽章もすごいメローでスローな聴かせる箇所なのだが、じつにソフトで柔らかい表現を披露してくれた。
                                                  
あっぱれであった。
                                                  
                                                 
                                                  
●ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番
                                                    
そしてこの全曲演奏会のトリをつとめるのが、我が愛するもっとも敬愛する第3番である。3番の魅力については、もう散々書いてきたので、ここでは割愛するが、まさにトリに相応しいドラマティックなエンディングである。
                                                 
12年前の清水和音さんも3番を弾きたくてピアニストになった、と豪語するほどで、3番に対しては並々ならぬ愛情と特別の感情を抱いている。譜面上の音符の数が非常に多く、奏法的にも非常に難しい、弾けるピアニストはなかなか存在しない。そういう曲である。
                                                      
阪田知樹のラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番は、それはそれは素晴らしかった。
阪田氏のピアノは、いままで聴いてきた分には、あまりイレギュラーな解釈をしない、オーソドックスな基本的な解釈に忠実と思っていたのだが、この3番ではかなり趣が違っていた。
                                                
非常に個性的で、いままでに聴いたことのないようなオリジナリティのある独特な3番であった。まずテンポを揺らすというか、じっくり歌い上げるような部分やメローな部分では非常に遅く、スローなテンポで、そして走る部分はかなり速いテンポで。。というようにかなりアップダウンの激しい抑揚のある揺らすタイプの3番であった。
                                                   
自分はいままでどちらかというと、全体を通して比較的1本調子、均一なスピード感の演奏を聴いていた感触が多いので、そういう演奏が染みついている耳には、かなり揺らすタイプだな、と感じた。こういうのもメリハリが出てきて、なかなか素晴らしいと感じた。
                                                   
そして第1楽章のカデンツアの部分。ここは初めて聴くカデンツァだった。いままで聴いたことがないカデンツァであった。コロコロと転がすようなトリル的な装飾を施して、明るい感じの表現をしていた。もちろん根底にあるのは従来のカデンツァのメロディなのだが、そこにアドオンしてそういう装飾を加える感じである。これはなかなか新鮮であった。誰のカデンツァなのだろう?阪田氏は自分で作曲や編曲もするらしいので、ご自身で創作したカデンツァなのであろうか?ここはかなり驚いた。非常に魅力的だと思いました。
                                               
3番のここ!というような見せ場、そしてテクニックの披露する部分、物語の展開の劇的なところ。。。そういうところはどちらかというと保守的できちんと伝統通りの表現に忠実な演奏であった。
                                                
でも随所随所に、テンポを揺らすことと、独特の慣れた弾きまわし、抑揚のつけ方など、かなりこなれた自分なりの解釈を大いに盛り込んでいて、全体としてかなりドラマティックになるように工夫をされているのが、素晴らしいと感じた。
                                                          
またテクニック的にも素晴らしかった。やはり3番はどうしてもパワーのある男性ピアニストが有利な曲ではあります。男性ピアニストらしいパワフルで切れ味のするどい奏法は、ほんとうに聴いていてスカッとさせてくれるし、やはり男性ピアニストだな、と再認識させてくれた。
                                                     
3番の最高の場面である最後のエンディングのシャットダウン。いままでの長い音楽絵巻物語をここにて一気に終結するラフマニノフ終止。頂点にどんどん上り詰めていく進行のオーケストラでの上昇部分。ここまで、ためにためてゆっくり歌い上げるスローなテンポは初めて聴きました。(笑)ここまでやるか!という感じでもうびっくり。
                                                     
そして一気呵成にピアノの連打で最後はすざましいシャットダウン。
その瞬間、もう鳥肌が立ちました。
                                                    
さすが男性ピアニストともいうべき、その迫力と切れ味。
                                                                 
格好良かったです。
                                                             
その瞬間、ホール内は大歓声。そして一気にオール・スタンディングオーベーションとなりました。3時間15分の長いドラマが終結した、その劇的な終結の瞬間にみんな高揚して、自分を抑えることができないような感じであった。
                                            
                                                                                                       
ドラマは終わった。
                                                        
                                         
                                               
3番は、自分の時代は、あまりに弾くのが難しいので、弾けるピアニストがあまりいなくて、実演に接することが難しい曲でした。でもいまの若い男性ピアニストは、いとも簡単に弾いちゃうんですよね。(笑)技術の進化というのは、ほんとうに凄いです。
                                                                    
阪田知樹のラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番。
                                                                           
あらたに自分のラフ3コレクションに加えておこうと思います。
                                                                
最後に、見事に競演を務めた指揮・大井剛史氏と東京フィルハーモニー。
                                                     
素晴らしい演奏で、非常に分厚い弦のサウンドがかなり気持ちよく充実して鳴っていました。ピアノを表に出すべく、あるときは掛け合いで語り合い、お互い足並みをそろえての3時間。
                                                        
見事でした。
                                                  
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阪田知樹 ラフマニノフ・ピアノ協奏曲全曲演奏会
2023年9月17日(日) 13:30~16:45
サントリーホール 大ホール
                                                  
ピアノ独奏:阪田知樹
指揮:大井剛史
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
                                                                     
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第1番
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番
                                                        
(休憩)
                                                                     
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第4番
パガニーニの主題による狂詩曲
                                                            
(休憩)
                                                                    
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番

                                                                             

                                            

                                                        

                                           

                                                       

                                           

                                                           

                                                                  








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清水和音 ラフマニノフ ピアノ協奏曲全曲演奏会 [国内クラシックコンサート・レビュー]

ピアニスト清水和音さんが、デビュー30周年記念公演ということで昨日8/6(土)でサントリーホールでラフマニノフピアノ協奏曲全曲演奏会を開催し、そのコンサートに行ってきました。


指揮は高関健さんで東京交響楽団。


清水和音

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高崎健

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サントリーホール

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ラフマニノフのピアノ協奏曲の全5曲を1夜で弾くというとてもチャレンジなコンサート で、1番~4番はもちろんのこと、パガニーニの主題による狂詩曲も含むというまさに 贅を尽くしたコンサートで、ラフマニアンの私にとってはもう堪らないコンサートでした。


実際の曲順はこうでした。(↓)


ピアノ協奏曲第1番

ピアノ協奏曲第2番

(休憩)

ピアノ協奏曲第4番

パガニーニの主題による狂詩曲

(休憩)

ピアノ協奏曲第3番



13:30~17:00のマラソンコンサート。本当に清水和音さんご苦労様という感じです。先日の序章の日記で私の各曲との出会い、思い入れなどを記載しましたが、最大の注目曲は文句なしに3番。


何を隠そう清水和音さんは「ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を弾きたいためにピアニストになった」と明言しているほどの3番の大ファン。今回の演奏でも曲順を3番をオオトリに持ってくる思い入れの強さ。


かく言う私も3番の中毒患者。マラソンコンサートの最後のエンディングは、あの3番の最終楽章のグルーブ感(盛り上がり)で凄い感動するんだろうな?と思っていましたが、期待通りの素晴らしい演奏でした。最後のシャットダウンのエンディングでは思わず背筋がゾクっとする大興奮。この曲の生演奏を聴くたびに経験するこの感覚、今回もきちんと体験することができました。


つぶやきでご存知と思いますが、じつは最初の1,2番のときはいまいち下手な感じで、全曲ともこんな感じなのかな?と思わず凄い心配しましたが、4番以降無事持ち直し、パガニーニ・ラプソディーも素晴らしく、最後の3番は頂点の最高の演奏でした。やっぱり3番の完成度は清水和音さんがもっとも思い入れのある曲だけのことはある、と思いました。


ラフマニノフのピアノ協奏曲で最も有名なのは2番。ところが清水さん自身過去に「僕は3番が好き。2番には興味なし」って何度か発言されているんだそうです。


まさにそれを地で行くようなくらい2番と3番では演奏の完成度が違いました。

まったく別人と思うくらい。(笑)本当に正直な方なんですね。(笑)


じつはこの公演のために自分のiPodに予習用として1,2,3番の曲を入れて聴いていました。この日も開演前の1時間も前にサントリーホールに到着したので、ホール前のカフェテラスで座ってiPodを聴いていたのです。



ラフマニノフ ピアノ協奏曲1番&2番 アンスネス、パッパーノ指揮ベルリンフィル


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ラフマニノフ ピアノ協奏曲3番 アルゲリッチ、シャイー指揮ベルリン放送響


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アンスネス盤は1,2番の演奏ではもっともお気に入りで上手いと思う演奏。3番は正直これは、と思うCDがないのが現状ですが、このアルゲリッチ盤はよく聴き込んでいた演奏。


さっそくホールが開場になってさっそく座席を探すと、今回に限り座席場所を事前に確認していなくて、座席を探す段階でなんと1階の最前列であることが判明!

なんとこの席!(↓)


1階1列25番


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私から見上げたステージ風景


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なんと目の前にピアノがドカンと(笑)。演奏する清水和音さんの姿は見えません。指揮者の高関健さんの姿は結局最後まで見えませんでした(笑)。ヴァイオリンの協奏曲や木管、金管楽器の協奏曲と違ってピアノ協奏曲の場合は、座席の位置で視覚的にかなり楽しめるか、そうでないかが決まります、私の場合。


オーディオマニアの意見によると、ピアノの位置に対して向かって右側の座席がピアノの音響が一番素晴らしく聴こえる位置だそうで、今回の私の席はまさにそう。確かに聴こえてくるピアノの音はCDの聴こえ方と全然違い素晴らしいものだった。みんなの言っていることは確かに間違いじゃない。


でも私の場合、やはり指が見えないと駄目なのだ。だからピアノに向かって左側の位置がいい。演奏している指の動きを観て、流れてくる音と相まって感動するのです。つまりピアノ協奏曲の場合視覚と聴覚の両方の相互効果がないと楽しめないのです。だから向かって右側だと顔しか見えなくて音だけが聴こえてくるので欲求不満になります。


だからピアノ協奏曲の場合の座席位置は結構コンサートを楽しめるか重要なファクター。


今回の席はまさにピアノを下から見上げるような感じで清水和音さんの顔さえ見えなかったのでいかがなものか?(笑)という感じ。


さてコンサート開始。


●ピアノ協奏曲第1番


第1楽章は、印象的なファンファーレで開始され、ピアノのオクターブの強烈な下降音型が繰り出される楽章です。ところが出だしのピアノの下降音型の部分、なんかテンポが凄く遅くて、しかもタッチのかろやかさがなくてかなり雑な印象?うん?下手だな?(笑)事前に聴いていたアンスネス盤は通常の演奏よりかなり速めのテンポでウマすぎな演奏なので、あぁ~、これは事前の予習が失敗したな~と思いました。予習は大抵海外の超一流の演奏家のCDを聴いて、うまい演奏を当然のように聴いている訳で、実際の国内演奏家の生演奏を聴いたときに、がっかりしちゃうというケースが多いのです。今回もそのパターンかな?と思いました。それでこれ以降の全曲も同じような出来だったら正直がっかりだな、楽しみにしていたのに困ったなと思ってしまいました。


第2楽章は、幻想曲とも言える書風。協奏曲におけるごく一般的な緩徐楽章です。この楽章のメロディは本当に美しいですね。この楽章に関しては出だしの悪い印象と違って素晴らしいと思いました。でも第3楽章でも結局波に乗れない感じで、全体としていまいちの印象。


●ピアノ協奏曲第2番


ご存知ラフマニノフのピアノ協奏曲の中で最も有名な曲。でも前述のように「僕は3番が好き。2番には興味なし」の清水さんの過去の発言にもあるように、その発言を裏付けるような出来でした。理由は1番と同じで、全体的にテンポが遅くて、なんかタッチが雑で曲全体的にバランスが悪い感じがしたのです。オケとのバランスも悪いです。2番はぜひいい演奏を聴きたかったので残念でした。でも誤解のないように言っておきますが、これは私感ですので、他のみなさんは素晴らしい演奏だったのかもしれません。ただ私がイメージしていた曲のイメージ像と違ったので違和感を持っただけなのです。


現にこの後の4番以降は見事に復帰するので、やっぱり1,2番に関してはアンスネスがウマすぎなのでしょうか。コンサートに対して予習することの欠点を認識した次第でした。



●ピアノ協奏曲第4番


休憩を挟んで4番に。今回の全5曲の中で唯一の不安要素だったのは4番。この曲はあまり馴染みがない、というか普段あまり聴かない。(笑)


清水和音さんも、もちろんピアノ協奏曲第3番をじっくり聴いてほしいと思うが、今回は特に第4番に注目してほしいと願っている、と言っていました。これはふだんあまり演奏される機会に恵まれないコンチェルトだが、だからこそこうした機会に耳を傾けてほしいと。


予習はしませんでした。これが正解でした。ピアノの重音で演奏される荘厳な雰囲気の第1主題が印象的。出だしから鍵盤タッチが安定していてバランスが良くて落ち着いて聴いていられました。先入観がないのが良かったのかもしれません。休憩を挟んで清水さん復活したな、と安心しました。


4番はどんな曲なのか記憶にないので、第1印象は、う~ん、ラフマニノフのロマンティック路線とは全く違う異質な印象を受けました。1,2,3番とはあきらかに毛色が違います。


ロマン派のラフマニノフの作風を望んでいる人であれば、ちょっと受け入れ難い印象を受けるんじゃないか、と思いました。でも私は演奏が安定してオケとのバランスも素晴らしく好印象でした。


最初の1,2番が絶不調で全曲こんな感じ?と心配だったので、本当に安心して、予感ですが、これ以降は上手くいくような感じがしたのです。



●パガニーニの主題による狂詩曲


この曲は3番同様、私はうるさいです。(笑)ご存知パガニーニの主題を、味を変え、品を変え、24種類のいろいろなバリエーションで変奏していく変奏曲です。第18変奏があまりに有名ですが、私はこの部分だけでなく曲全体としてトータルな流れとしてこの曲を捉えるのがこの曲を楽しむコツだと思っています。


清水さんの演奏も、この曲の場合もとてもオケとの掛け合いのバランスがよくタッチも安定していて安心して聴いていられました。大変良かったです。最初の序奏の後、分解された主題の”ラミ”が骨格で演奏され、その後に主題が変奏の後に登場するという画期的な手法。前半の一番の頂点は第4変奏でもうひとつの分解された主題”ラドシラ”をいろんなバリエーションで演奏していくこの部分です。最初のエクスタシーを感じるところです。


次に第7変奏、ここにはラフマニノフが生涯こだわったディエス・イレの旋律が隠されています。ディエス・イレはロシアの教会の聖歌の旋律のことでラフマニノフは自分のいろいろな曲にこの旋律を入れています。ロシアを亡命するという悲劇の人生の根底に潜む旋律で、革命によって失われたロシアの教会の響きへのラフマニノフのこだわりの部分だと思うのです。この変奏曲の中で唯一パガニーニの主題とはかけ離れているメロディで私は特別な想いがします。


そして第18変奏。映画やCMなどに使われていたりするあまりに有名な旋律ですが、この前の第17変奏に伏線があります。凍えるような寒く長いロシアの冬を感じさせる旋律で、そこから春の訪れを感じさせるように第18変奏に切り替わる瞬間がなんとも言えないエクスタシーなのです。そして第18変奏は非常に甘美なメロディーでせつなく響く官能的な響きで最高ですね。


もうこれ以上の説明は不要でしょう。(笑)


清水さんの演奏、非常に素晴らしかったです。



●ピアノ協奏曲第3番


そしていよいよオオトリの3番。清水さんに「ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を弾きたいためにピアニストになった」と言わしめた曲。


そして私自身もこだわりのある曲。


オーケストラによる短い序奏の後にピアノがオクターヴで奏する第1主題が全体を貫く共通主題となっており、全曲を統一する役割も持っています。この出だしの部分の演奏で清水さんの演奏は非常に安定して、まさにCDで予習していたイメージ通りなのです。これはいけると思いました。さすが清水さんのこだわりを持っている曲だけのことはあると思いました。


1,2番のときの演奏とは全く別人かと思いました。


第2楽章ではオーボエで提示される憂鬱だが美しい旋律を中心に、その他様々な重要な旋律を扱って進んでいき、清水さんの演奏に私もどんどん引き込まれていきます。もっともこだわりのある3番で自分のイメージ通りの安定した演奏に私はいいわ~(笑)とご満悦。


アタッカによって休みなく第3楽章へ続き、そしてこの曲で私が最も興奮するところ、終盤のエンディングにかけてのグルーブ感(盛り上がり)、テンポを上げて一気に盛り上がり、その頂点で派手な軍楽調の終止に全曲を閉じる部分です。この賑やかな軍楽的な終結は「ラフマニノフ終止」と呼ばれているもので、この部分で私はいつも体全体に稲妻のようなゾクっとくるのを感じるのが快感なのです。


私はこの「ラフマニノフ終止」を経験したくて、いつもこの曲の生演奏に出かけるのです。日本のピアニストでは小山実稚恵さんがこの曲を得意としていて(というかこの曲だけでなくラフマニノフ弾きの名手として有名)、小山さんのこの曲の公演はいままでかなりの回数通っていますが、この瞬間は何度味わっても凄い快感なのです。


そして清水さんの演奏のこの瞬間もまさに期待通りの快感。


この終わった瞬間、となりに座っていた高貴な上流階級の感じの貴婦人の方は、「わぁぁぁ~」という決して意識的ではない無意識に出てきた叫び声を挙げていました。


本当に素晴らしい一瞬で素晴らしい演奏でした。さすがこだわりの曲だけある、と思いました。


清水和音のラフマニノフを聴くなら、やはり3番ですね。


マラソン演奏会で、最初の1,2番では絶不調だったのが、後半から最後にかけては素晴らしい名演を聴かせていただき、波はありましたが、本当に大満足でした。


清水和音さん、お疲れ様でした。







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