SSブログ

エリーナ・ガランチャ リサイタル [国内クラシックコンサート・レビュー]

自分がずっと憧れてきた永遠のディーヴァ、ガランチャ様こと、エリーナ・ガランチャのリサイタルがすみだトリフォニーホールで開催された。6/28と6/29と2日間とも自分は通った。


289859623_5843556542340966_8504688663622798332_n.jpg



思えば2020年のマーラーフェスト2020でアムスから帰国したら、すぐに1週間も経たないうちに、ガランチャ・リサイタルである。うわぁ~これは大変だな~と思いながらも、まさに音楽に溢れた日々を過ごせるんだから、うれしい悲鳴じゃないのか、この幸せ者!と思っていた。


マーラーフェストといって騒いでいたときである。いったいいつのことだ?(笑)そしたら、世界中の誰もが予想もしなかったコロナ禍に突入。音楽界は地獄に落とされた。


ガランチャ・リサイタルも延期に延期で2年待った。ご本人も主催者側もよく中止にしないでくれたものである。主催プロモーターはテート・コーポレーション。


そしてようやくその日が来たのである。自分の中でいろいろ想うところが多かった。


89254738_10156922690801127_5743894682472022016_o[1].jpg


エリーナ・ガランチャ。


ラトビアの歌手である。自分は2010年の米METのカルメンでその衝撃ともいえるセンセーショナルな旋風を巻き起こしたときをきっかけにファンになり、ずっと注目してきた。


その年だったか、年末のベルリンフィルのジルベスターコンサートでラトル指揮でソリストとして歌ったのもとても印象的ですっかり彼女の虜になってしまった。NHKで放映されたその録画を何回も何回も擦り切れるほど繰り返して観た。当時の自分にとってガランチャといえば、カルメンだったので、もちろんそのジルベスターでカルメンを歌ってくれたときは、この上ない幸せだった。


2013年にザルツブルク音楽祭を訪問できたときも、祝祭大劇場でのムーティ&ウィーンフィルのオーケストラ・コンサートでヴェルディのレクイエムのときも、独唱ソリストで登場していた。自分がガランチャの実演に初めて接した体験はこのときだと思う。


なにせ、ヴェルレクであのような曲だから、ソリストが活躍するシーンも短く、あっという間だった。でも将来、オペラやリサイタルをじっくり体験したいと思っていた。


そのときはすぐにでもそれが実現できそうな気がしていた。


あれから10年、まさかこんなにインターバルが空くとは思ってもいなかった。


ガランチャが日本に初来日したのは、2003年の新国立のホフマン物語のときだそうである。ガランチャが世界的なスター街道を一気にかけ上がっていたのが、2003年ザルツブルク音楽祭でニコラウス・アーノンクール指揮によるモーツァルト「皇帝ティートの慈悲」のプロダクションでアンニオを歌ったときである。


このときからガランチャの国際的な活躍が始まった。


そんな世界スターになる前に、新国立で歌っていたんですね。自分はまったく知らなかったです。


あれから19年ぶりに日本来日。日本での初のリサイタルを開催してくれたのである。



188978691_322185302598456_8826526355432255393_n.jpg


現代オペラ界の頂点に君臨。まさに欧米の第一線で活躍しているオペラ歌手を堪能できるのである。


自分がオペラ歌手に対して、猛烈に追っ掛けしたのは、グルベローヴァさま、こと、エディタ・グルベーロヴァの来日ツアーである。でも悲しいかな、グルベローヴァさまは、もう全盛期はとっくに過ぎ、引退宣言もしてそれを撤回しての来日ツアーだから、衰えも隠せず、実演を聴いても往年の声の張りもなく悲しいところもあったが、でもやはりオペラファンにとって、グルベローヴァさまの実演に接することができただけでも大感動なのである。


一生の宝物なのである。


それに対して、ガランチャ様は、いままさに頂点なのである。歌手キャリアの中で、いまがもっとも光り輝いているときなのである。


ヨーロッパのオペラハウス、米METなどの第一線を走り抜けているそんな最高のときを堪能できるのである。これほど至宝の体験はないと思う。


ガランチャの実演に接するにはどうしたらいいのか。自分なりに考えていた時期がある。なにせ欧米オペラ界の一流の大スターである。


新国立のオペラでふたたび呼んでくれるだろうか?たぶん自分はそれはないだろうと思っていた。


新国のオペラというのは、やはり年間の予算というのが決まっていて、1つのプロダクションにかけられる予算もさらに限られてくる。舞台芸術の舞台装置から、歌手、合唱のギャラに至るまで。だから選出される歌手は、新人とか、これから世界に羽ばたいていきそうな新しい人材を選ぶ傾向にあって、出演ギャラもそんなに高騰ししていない頃の人材を選ぶものである。


そういう海外の若手歌手と日本の二期会の日本人歌手と和洋折衷的な感じで組むのが新国オペラだと推測するのである。


そんな中で、ガランチャのような第一線の歌手を呼ぶことってあるのかな?と思ったりした。やはりギャラ的に難しいのではないかと自分で勝手に思っていた。


そうしたら、もう彼女を聴きたいのなら、もう自分からヨーロッパに行かないとダメなんだろう。こちらから現地に赴かないと聴けない歌手なんだろうという結論に達した。


日本で実演に接するには、リサイタルというスタイルが一番近道なのだろう。


でも基本は自分がお金をかけて、ヨーロッパや米国に出向く。そういう歌手なんだ。夢はとりどめもなく高いな、と挫折しかけたこともあった。


283914572_587041579446159_7155408153055115597_n.jpg


彼女の声音域はメゾ・ソプラノなのだが、メッゾらしい安定感があって、ガランチャの声は本当に定位感がよく安定しているので、聴いていて気持ちがいいのである。ソプラノは本当に高音域の美しさがいいけれど、じつは高音域であるからこその線が細くて、不安定要素も大きい。それに対してメッゾは、すごく安定感があって、声の線が太いので、とても安心して聴ける良さがあるのである。


自分がガランチャが素晴らしいと思うのは、そしてオーディオで録音を聴いていて思うのは、とにかく定位がすごくいいこと。発音の音程の安定感が飛びぬけて素晴らしい。声の線は太い方だけれど、安定感抜群の美しさがあってそこに惚れているのである。


そしてそこにスタイルが抜群で、さらに美貌ときている。なんか天は二物も三物も与えた感じで、いつかじっくりリサイタルでも堪能してみたいディーヴァ(歌姫)だと思っていたのである。



オペラ歌手はその得意のレパートリーからして、ワーグナー系、ベルカント系とかに分けられる傾向があるが、彼女はとくにそのような分類はないような感じがする。でもワーグナー系ではないことは確かである。(笑)キャリアでもワーグナーの演目はやっていないようだ。


モーツァルト、ロッシーニ、ヴェルディ、R.シュトラウス、ロッシーニ、ベッリーニ、ビゼーなどなど。


所属レーベルはDG。彼女の録音はかなり買え揃えている。そのたびにいままでも自分の日記で幾度も取り上げてきた。



242052231_411805156969803_8380075716625905610_n.jpg


クラシック、オペラは自分にとって”現実逃避”。


普段の会社生活、仕事での自分の世界から、まったく異次元の夢の世界に自分を連れてってくれる。その現実社会から離れて、夢を見たいから、その稼いだお金を、みんなそこに惜しげもなくつぎ込むのだ。そのために会社で働いている、仕事をしているのだ。


それが生き甲斐なのだ。



DSC07070.JPG


DSC07080.JPG



初の単独日本リサイタル。すみだトリフォニーで、初日は3階席、2日目は1階席で聴いた。



実直な感想を述べると、実演とオーディオでそんなに差のない自分のイメージした通りの歌手だと思った。よくオーディオで録音を聴いていると、すごくいいのだけれど、じっさい実演に接してみるとガッカリする歌手は結構多いのだ。


その点、ガランチャはまったく差がなく、むしろ実演のほうが全然素晴らしい歌手であった。


あの声量感、ダイナミックレンジ、そして抜群の定位の良さ。自分が想像している以上に凄かった。


ガランチャの一番の魅力は、その完璧なまでの定位の良さ、音程の安定感だと思っているのだが、それ以上に驚いたのが、声量である。とくに強唱のときのあの声量は凄すぎる!!!(滝汗)


これは実演に接して初めてわかることだと思う。オーディオで録音を聴いているだけでは、絶対わからないと思う。


強唱のときでも、けっしてサチらない(飽和しない)。要はいっぱいいっぱいな感じではなく、器の容量が大きく、その大きな容量の中で十分にコントロールされている強唱なのである。


それでいてあの声量感。これは恐れ入りました。凄すぎる・・・、と冷や汗だった。


初日の3階席で聴いているとき、視界的には本当に豆粒くらいにしか見えないのに、発せられる声量はすごいのである。2000~3000人は収容すると思われるホールの隅々まで響き渡るのである。もちろんマイクなんてなく地声ですよ。オペラ歌手って本当に凄いな、と思ってしまう。


その圧倒的な声量、D-Rangeにもう驚愕されっぱなしであっという間の2時間だったと思う。


もうひとつ凄いと思うのは、歌い始めた最初からエンジン全開、絶好調なのである。ふつう歌もの、歌手のコンサートというのは、最初は喉が温まっていないせいもあって、歌い始めはかなり不安定なものである。聴いている側は、ちょっとちょっと大丈夫?と心配するくらい不安定なもので、これが中盤から終盤にかけて、喉が温まってきて、ラストは最高潮に感動・・・こういうパターンである。


自分がいままで経験してきた90%以上はこのパターンである。生身の人間が楽器のコンサートなんだから、それも仕方がないことと思っていたところもある。


でもガランチャは、もう最初の1曲目から、まさに絶好調、最高潮のボルテージ、テンションなのである。(笑)これは驚くしかなかった。


259971492_465826164901035_4355515234854787690_n.jpg


260091954_465826161567702_2828268464087208792_n.jpg


演目は、ブラームスに始まり、ベルリオーズ、ドビュッシー、サン・サーンス、グノー、チャイコフスキーなどすごい多岐に渡り、熟慮を重ねたよく練られた構成の曲のように思えた。



自分があまり聴いたことのないような曲が多かった。でもカルメンのハバネラを聴けたときは、もうこれで十分だなと思った。


まさかガランチャ様のカルメンのハバネラを、こうやって生で聴けるなんて!自分の目、耳でじかに体験できたなんて、ファン冥利につきるのではないだろうか。これ以上の幸せはない。


2日目は、1階席の真ん中なので、ステージ上での表情や演技もよく拝見できた。


1曲1曲、とても表現豊かで演技が入っているのが素晴らしい。歌ってよし、美人で、愛嬌もある。


驚いたのはアンコールである。第1部(前半)と第2部(後半)は比較的に真面目に進行していくのだが、アンコールが大変な盛り上がりだった。最初、我々は3曲くらいやって終わるのだろう、と思っていたのだが、初日で6曲、2日目で7曲の大サービスだったのだ。


3曲目以降になると、さすがに聴衆もみんなびっくりですごいどよめき(^^;;と大歓声である。1曲ごとにガランチャの流暢な英語でコメントを発しながら進んでいくのだが、もう聴衆はアンコール後半になるにつれて、狂喜乱舞である。ガランチャ自体、すごい陽気で明るいキャラなので、そのノリもあって、すごい盛り上がりだった。


もうこれはアンコールではない。列記とした第3部なのである。この第3部アンコール編でコンサートは一気に頂点に達した。


これはあとで自分が思ったことなのだけど、これは彼女の計算のうちなんじゃないかな、と思うのだ。第1部、第2部とうって変わって、観客から大歓声と大拍手でどんどん乗っていく、彼女は完璧なまでのエンタティーナー、ショーマンなのだと思う。


圧倒的な歌唱力で、すごい馬力でどんどん進んでいくと思えば、根っから陽気で愛嬌がある。明日もあるのに、アンコール6曲、7曲も平気でどんどん歌って頂点に誘っていく。


女性なんだけど、


鉄人・・・


思わずそんなイメージを頭を過るそんなすごいパワーを感じるオペラ歌手でした。



最後に、ガランチャの実演に接して思ったこと。


我々アジア系の人種で、このように同じ世界観を表現できるのか。自分は正直なところ、かなりジェラシー、嫉妬のようなものを感じた。


クラシックは西洋人の音楽。そこに我々は根本的なコンプレックスがある。小澤征爾さんも、自分はモルモット。西洋人のものであるクラシックの世界に東洋人の自分がどこまでできるのか、だと仰っていたのは有名な話だ。


それもずいぶん昔の話。いまでは日本人演奏家、日本人歌手の実力も軒並みレベルが上がってきてそういうことをまったくといっていいほど意識しなくなった。


現に聴衆である自分も、コロナ禍になる2020年前までは、まったく外来オケ、外国人歌手と日本オケ、日本アーティストなどの差なんかまったく意識したことなく楽しんでいた。そんなこと思ったこともなかった。



コロナ禍になって、海外のオーケストラや海外アーティストの来日がまったくなくなって、そういうブランクがあって2年ぶりにひさしぶりに体験して、なんかそんな微妙ななんともいえない嫉妬を感じたのだった。




エリーナ・ガランチャ リサイタル2022


2022年6月28日(火)・29日(水)

すみだトリフォニーホール


第一部


ブラームス(1833-97)


「愛のまこと」Liebestreu Op.3-1

「秘めごと」Geheimnis Op.71-3

「僕らはそぞろ歩いた」Wie wandelten Op.96-2

「ああ、帰り道がわかるなら」O wusst ich doch Op.63-8

「昔の恋」Alte Liebe Op.72-1

「五月の夜」Die Mainacht Op.43-2

「永遠の愛について」Von ewiger Liebe Op.43-1


ベルリオーズ(1803-69) 劇的物語「ファウストの劫罰」より「燃える恋の思いに」


ドビュッシー(1862-1918)「月の光」


サン・サーンス(1835-1921)歌劇<サムソンとデリラ>より「あなたの声で心を開く」


グノー(1818-93) 歌劇<サバの女王>より「身分がなくても偉大な方」


休憩(Intermission)


第二部


チャイコフスキー(1840-1893)歌劇<オルレアンの少女>より「さようなら、故郷の丘」


ラフマニノフ(1873-1943)

「信じないでほしい、恋人よ」

「夢」

「おお、悲しまないで」

「春のせせらぎ」


アルベニス(1860-1909) タンゴ ニ長調


バルビエリ(1823-1894) サルスエラ<ラバビエスの小理髪師>から「パロマの歌」


ルペルト・チャピ(1851-1909) サルスエラ<エル・バルキレロ>より「とても深いとき」


サルスエラ<セベデオの娘たち>より「とらわれし人の歌(私が愛を捧げたあの人のことを思うたび)」







nice!(0)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。