DX時代のコンサートホール:電子チケット(e-ticket) [コンサートホール&オペラハウス]
DX時代のコンサートホールを語るうえで、システムアーキテクチャ、信号処理という重い部分は前回でひととおり終了である。今回からは比較的身近で親しみやすいテーマ、でもとても大事なことについて考えていきたいと思っている。
クラシックに限らず、コンサート全般に言えることだが、チケットはとても重要な役割でかならず必要になるアイテムである。
いままでは紙のチケット。もう長年の歴史がある。いまのクラシック業界も、ぴあやイープラスでも紙チケットでの販売が絶対的である。なにを隠そう自分も紙チケット派である。やっぱり安心するし、信頼度がある。紙チケットの入手方法は、郵送かコンビニ発券である。ぴあの場合はCloakという間にクッションが入りますね。
このチケットの部分を電子チケットにできないか、というお話である。
電子チケットは、欧州、ヨーロッパのほうでは数年前からかなりの頻度で進んでいる。欧州では電子チケットのことを、e-ticketと呼びますね。
自分が盛んにヨーロッパに海外音楽鑑賞旅行に毎年出かけていた頃、そのコンサートのチケットは大切な重要な公演、争奪戦が考えられるような失敗が許されないような公演のチケットについては、旅行会社にお任せしていた。でもそれ以外の軽いウエートの公演は、自分で海外のサイト(オーケストラのサイトであったり、ホールのサイトであったり。)で自分で取ることも多かった。
旅行会社にとってもらう大事な公演のチケットは、紙チケットである。
そして自分がとる公演のチケットは、e-ticketが多かったように思う。
というのは、海外のサイトは、チケット購入サイトにおいては、チケットを郵送するか、e-ticketにするかの選択ボタンがあるのだ。これは十中八九そうである。
紙チケットを選ぶと決済後、郵送で送られてくることになるが、郵送だと、海外、欧州からの郵送だから時間もかかるし、郵便事故がすごく怖い。だから自分は自分でチケットを取るときは、まず郵送は選ばなかった。かならずe-ticketにしていた。e-ticketにすると、買ったと同時にチケットが手元に持てるからである。
e-tikcetにすると、どんな感じに進んでいくかというと、そのe-ticketの送り先をスマホにするかPCにするかの選択を聞いてくるのだ。
スマホを選択すれば、スマホにe-ticketが送られ、ホールのゲートでは、そのスマホの管面に提示されているe-ticketのQRコードを見せて、レセプショニスト、女性スタッフはQRコードリーダーを持っていて、それで読み込んでOK、はい、どうぞ、となるわけである。
あるいは、ゲートのところにQRコードリーダーが設置されていて、ゲートを通るときに、スマホe-ticketのQRコードをかざして、OKではい、どうそ、てな感じである。
もしPCを選択すれば、PCにe-ticketが送られ、それをプリントアウトして紙状態のe-ticketとして所有するのである。プリントアウトしたe-ticketには、QRコードがあって、それをQRコードリーダーで読む。あとはスマホのときと同じである。
これは幻となってしまった2020年にアムステルダムで開催される予定であった、マーラーフェスティバル2020のe-ticketである。
e-ticketの転送先としてPCを選択し、送られてきたe-ticketをプリントアウトしたものである。だからe-ticketなんだけど、紙なのである。(笑)右上にQRコードが見えるであろう。レセプショニスト、女性スタッフ、あるいはホールのゲートのところにQRコードリーダーがあって、そこにこのe-ticketのQRコード部分をかざして、はい、OK,どうぞ、となるのである。
このように、e-ticketの利便性は、購入と同時にすぐに自分の手元にチケットを入手することができるという安心感である。
ここで大切なことは、海外、とくに欧州のチケット購入サイトでは、かならず紙チケットにするか、e-ticketにするかの選択肢があるということだ。そしてe-ticketにした場合は、さらにスマホに転送するかPCに転送するかの選択肢がある。
2016年にバイロイト音楽祭に行ったとき、ホールへの入り口のところにいる女性スタッフは、みんなバーコードリーダーを持っていた。
バイロイト音楽祭のチケットは、紙チケットであるのだが、そのチケットの下端にバーコードが書いてあるのだ。そして入場するときに、そのチケットのバーコードを、女性スタッフが持っているバーコードリーダーでスキャンする。(赤い光でスキャンする。)
そうすると、そのバーコードリーダーには表示画面がついていて、そこにOKかNGかの結果が表示されるようで、はい、OK、どうぞ、という感じなのである。
これは紙チケットであるのだけど、さらにそのチケットが偽造チケットではないか、ちゃんとバイロイト音楽祭の発行したチケットなのかどうか、バイロイト祝祭劇場の座席情報とマッチングするかどうかの確認する機能がそのバーコードリーダーの中に組み込まれていると思われる。
けっして電子チケットじゃないんだけど、そういうセキュリティ機能がついているのである。
さすが難関中の難関のバイロイト音楽祭である。
自分は軽いカルチャーショックを受けたものである。さすがだなぁ・・・てな感じで。
そして日本にもそのようなe-ticket、すなわち電子チケットがお目見えするようになった。
東京交響楽団の電子チケットである。
東響の電子チケットは購入サイトは東響サイトによる電子チケットオンリーの限定利用だったように記憶している。
東響の電子チケットは、スマホ転送型で、ホール側、ホールの女性スタッフ側でバーコードリーダを必要としない認証方式であった。スマホの電子チケットの管面を指で丸くなぞると、OKの表示がされるというものである。
もしそれが偽造の電子チケットであるならば、そのような行為をしてもOKの表示が出ないので、ちゃんと認証方式として成立している。ある意味、ホール側、女性スタッフ側にバーコードリーダーというツールを必要としないコストダウンな電子チケットであった。
その電子チケットが本物かどうか、ホールの座席情報と合致するかどうかの正確な照合としては、やはりバーコードリーダーをホール側、女性スタッフ側が持っているスタイルのほうが、セキュリティ面的にも精緻な保証付きという感じはする。
ここまでは自分の体験談であるが、その後電子チケット(e-ticket)のクラシック業界への浸透はなかなか素晴らしいものがある。
それが電子チケットteketである。
自分は利用したことはまだないですが、これは凄いです。驚きました。
単にチケットがe-ticketである、というばかりではない。コンサートを開催する、イベント管理などコンサート主催者側の立場で必要な機能を全部盛り込んだようなアプリで、アーティスト1人でコンサートをやりたい、と思ってもそのまま開催できてしまう、それだけトータルソリューションなアプリなのである。
イベント・顧客管理
電子チケットの販売・管理
チケット販売数・売上管理
QRコードによる入場管理
入場数のリアルタイム確認
チケット販売履歴のダウンロード
●イベント作成に関するサポート
イベント集客に強い魅力的なイベントページ
安心で使いやすい、電子チケット
リアルイベント・ライブ配信のチケットを並行販売
座席指定、ライブ配信の不正視聴防止などの要望にも対応
マーケティング
チケット購入者へメール送信
公式HPやSNSとの連携
メール・SNS等のシェア促進
EC連携(BASE連携することで商品連携可能)
応援コメントやギフト(投げ銭)の収集
アンケート
・・・ここまで網羅した完璧なビジネスパッケージソリューションとしてのツールと言っていいと自分は思います。
チケット購入者側だけでなく、イベント主催者側の利便性も考えており、ある意味電子チケットビジネスの理想形に近いような感覚をもつ。
電子チケットteketは、大手プロモーターによる大規模なコンサート運営はもちろんのこと、もっと小規模な運営母体、たとえばアーティスト本人でも簡単にコンサート運営ができる、というところがメリット。そして電子チケットのみでの販売を前提としていて、顧客管理、マーケティング解析など、チケット購入者が全員電子チケットを購入するという前提で、こんなメリットがたくさん生まれるというコンセプトである。
この電子チケットのみで成り立つ世界、というところがミソのように思う。
自分はこれは素晴らしいな、と感心しました。
素晴らしいアプリケーションだと称賛の声をかけてあげたいです。
ちなみに、ホールへの入場は、チケット購入者側は、スマホのQRコードを係員に見せて、係員のほうも同様のスマホを持っていて、そのスマホで、そのQRコードを読み込んで、正しいチケットかどうかを判断するという仕組みである。
スマホであれば、いわゆるパソコンと同じですから照合機能としては十分すぎるくらいですね。係員側のスマホには、その照合専用のアプリがインストールされているのでしょうね。
こういう現状の状況も踏まえ、紙チケット中心の大手チケット業者としてこのように進むといいなーというようなアイデアを考えてみる。いきなり全部、電子チケットteketのようには難しいと思う。
●大手プロモーターによるコンサート運営の場合は、チケット販売はやはり紙チケットと電子チケットの併用で段階的に進めていくのが無難である。(チケット購入者は、クラシックの場合、実際高齢者がかなり多い。)
●大手プロモーターによるコンサート運営の場合は、イベント作成などからの全部電子化というよりは、まずはチケット購入のフェーズだけでの電子化を考え、いきなりではなく、徐々にすべての電子化を進める段階的なステップアップのほうが望ましい。
●チケット販売の選択制:紙チケット(郵送・コンビニ発券)、電子チケット(PC印刷型・スマホ型)。海外(特にヨーロッパ)のチケット販売ページは、もう完全にこの4択ができるようになっている。
東響のように、現在は楽団が電子チケットの販売権を持っているような感じだが、やはり将来的には、電子チケットシステムの規格が標準化されて、ぴあやイープラスなどのチケット販売業者が電子チケットを売るような仕組みにしてほしい。
いわゆる海外のチケット販売システムのようなユーザによる選択制にする。そうすれば紙のチケットもなくならないし、すべてのチケット販売の選択肢が残る。
選択制:紙チケット(郵送・コンビニ発券)、電子チケット(PC印刷型・スマホ型)
ぴあやイープラスなどのチケット販売ページには、この4種類の購買方法が選択できるようにしてほしい。
いきなりすべてオール電子チケットというソリューションではなくて、このようにいまのビジネスに溶け込みやすいすんなり移行しやすい方向から入っていくべきである。
紙のチケットはなくさないでほしいです。たとえば、スイスロマンドのチケットホルダー素敵です。こんな文化もあるとやはりホッとします。また、やっぱり紙チケットのほうが安心するファンも多い。(高齢ファンも含め)
チケット販売サイトは、この従来の販路だけではなく、これからの時代いろいろな可能性がある。
今後、DX時代の有効なコンサート宣伝・広告ちらしと思われるWebページ。あるいは、従来の紙でのフライヤーや広告ちらしにも、QRコードが貼ってあって、それをスマホのリーダーで読み込むと、そのチケット販売サイトに飛べるようにするのも有効と思われる。
電子チケットに付帯情報を設けるURLリンク、QRコードをつけて、
・そのプログラムに書かれているその日に演奏する曲のストリーミングURL。コンサートに行くまでの間のその曲の予習ができる。どのオーケストラやソリストの演奏曲を選ぶかは、その日の公演のアーティストの判断に任せる。~自分の曲が録音されている場合は、自分の曲。あるいはお勧めの曲とか。自分がこれを聴いてほしい、好きなアーティストとか。
・あるいは公演前のフライヤーやホールに貼るポスターに記載されているQRコードにも同様の情報が入っていて欲しい。~そのプログラムに書かれているその日に演奏する曲のストリーミングURL。コンサートに行くまでの間のその曲の予習ができる。
電子チケットの利用方法としては、以下のような付加的なサービスも付属しているとビジネスの拡販になっていいと思う。アンケートなどは紙である必要はまったくなく電子データで十分。電子データであるほうがアンケート結果も集計、解析しやすいしメリットは大きいと思う。、
・電子アンケート(チケット購入者の分析~マーケティング解析に活用する。)
・投げ銭ができるようにする。(イベント中はもちろんイベント終了後も)=アーティスト側の臨時収入。
・終演後のコメントを投稿できるようにする。(アーティストにとってとても大事な情報、演奏のファンの受け取り方を把握できる。)
・アーティストのCDや関連グッズのEC販売とのリンク。その日の演奏曲のCDであるとか、もちろんそれ以外にも。
電子チケットteketはもちろん素晴らしいのですが、いきなり全部なにからなにまでオールインのデジタル化というよりは、大手チケット業者が入ってこれやすいように、チケットの販売のフェーズのみ電子化を取り入れて、しかも紙チケットとの併用で販売。そして電子チケットには、諸々の付加サービスをつけてくれると、いろいろ拡販サービスできていいと思います。現実的だと思います。
まずはぴあやイープラスのチケット販売業者の購入サイトでは、紙チケット(郵送・コンビニ発券)、電子チケット(PC印刷型・スマホ型)の4択にしてほしい。欧州の購入サイトに追いついてほしい。
海外、欧州、ヨーロッパのチケット購入サイトというのは、海外からヨーロッパにやってくるお客さん、外国からの購入者もきちんと考慮しているため、こういうe-ticketの選択肢を設けているんだと思います。日本のチケット購入サイトは、海外からの購入者、外国から公演にやってくるお客さんという発想が前提に全くないですね。だから別に紙チケット(郵送・コンビニ発券)だけでいいんだと思います。外国の人から言わせれば、コンビニ発券とか言われてもそりゃ無理だろ!という感じなのでは。(笑)
日本のチケット購入サイトもインターナショナルになる必要があると思います。
もちろんコンサートホールの購入サイトやアーティストHPの購入サイトでも同様です。
DX時代のコンサートホール:音響AI解析 [コンサートホール&オペラハウス]
これからのDX時代のツールとして、やはりAIは使っていかないといけないだろう。AIは次世代の社会を支える、とても重要な技術である。人工知能(AI)とは、人間の知的活動をコンピュータを使って人工的に再現したものであり、次世代の社会を支える主要技術のひとつ。
プログラミングとデータ解析を組み合わせて新しい価値を創造する、とても重要なクリエイティブツールなのだ。
●AIにできること
AIには、できること(得意なこと)とできないこと(苦手なこと)がある。得意なことは、大量のデータ処理、ルールに沿った作業、共通点を見つける作業などである。
音声認識・応答
文章認識
画像認識
推論
機械制御
いまAIを使っていろいろな凄いことができてしまうのは驚きだが、自分はそのようなAIを使ってどういう機能を作るというよりは、なぜそんな凄いことができてしまうのか、AIそのものの構造に興味がある。まずそこを理解したいと昔から思っている。
まっおそらくAIのアルゴリズムとして、ニューラルネットワークとか機械学習、デープラーニングというアルゴリズムがあって、人間の脳の構造、思考回路をそのままコンピュータ上で実現する、そんなイメージである。で、実際おこなう処理は、いわゆる総当たり計算に近い、すべてのパターンを計算してしまう膨大な計算量で、AI将棋とかAI囲碁、AIチェスなんかもそうですね。愚手からなにからすべて総当たりの手を計算して全部選び出し、そこから最善手を計算する。AIとはそういう計算の仕方をするのである。
だから膨大な計算量が必要になり、昔はスーパーコンピューターでないと処理できないものであったが、昨今のPCのCPUの著しいハイパフォーマンス向上で、家庭用PCあるいはワークステーションでも充分AIを動かすことができるようになった、ということだろう。
AIはまずアルゴリズムがあって、そのアルゴリズムのおかげで、信じられないレベルのことが実現できてしまう,それだけの膨大な演算が可能になった、というのがAIの正体なのだと思う。そしてそれを実現するためにハードウエアが後から追いついてきた、ということなのだろう。
それで、AIを使って実際凄い機能を実現するフェーズになると、おそらくOSのAPIみたいなプログラミングライブラリがあって、通常ソフトエンジニアはそのAPIを使ってアプリケーションを開発する。
それはAIのニューラルネットワーク、機械学習、ディープラーニングのアルゴリズムを利用するために欲しい機能をプログラム開発するためのAPI相当のライブラリがあるに違いない。そういうものがあるのだろう。そういうAPIを使ってプログラミングしていて、欲しい機能を実現しているのであろう。
全部私の推測レベルです。古い時代の技術者のたとえですみません(笑)
tackさんから教えてもらったところ多いです。(笑)
見当はずれのところもあるかもだが、まぁまぁ。。。
AIのシステム図みたいなものを作るとしたら、こんなイメージであろう。
入力xのデータとして、まずAIに学習させるデータは、判断材料である。ある結果を導き出したいためにそれをおこなうためには、まずその判断材料をAIに学習させる必要がある。それは複数N個あっていい。(AIはそれこそ膨大な学習能力・処理計算ができる。)
AIは、プログラミングライブラリAPIを使ってソフトエンジニアが開発した欲しい機能(解)を出力するための機能関数みたいなものである。y=f(x)
出力させる前に、どういう条件下でという仮定条件を入力する。
その仮定条件に応じた形での解を出力する。それが出力yである。
つまり膨大な学習データを徹底的に解析して、その特徴を整理できる能力があり、その解析データに基づいて、その入力の仮定条件に適した解を導き出して出力するのである。
AIの機能ってこんなイメージなのかなと自分は勝手に想像している。あくまでAI機能を実現するイメージ図である。
最近のAIの開発で驚いているのが”ChatGPT”である。
ついにここまで来たか!という感じである。
いつかChatGPTを自分でも試してみて、これひとつのテーマで日記を書いてみたいと思っている。
まだ自分もよく理解していないところもあるが、ある質問、テーマを投げかければ、そのまま文章を書いてしまうAIである。いろいろなAIの機能が出てもあまり驚かない自分ではあるが、このChatGPTはちょっと恐怖に感じてしまった。
文章、文体と言うのはある意味、人間の個性である。
その人の考え方、性格が、その個性を生み出している要因である。
その人々によってそれぞれの個性の文体が存在する。
でも判断材料として、その人の文章を大量に学習させれば、ある仮定条件、質問を投げかければ、新たに書くテーマもその人の文章になってしまうのか?
これは恐怖である。(笑)
自分の文体、考え方が、そのままAIで書けてしまうのか?
ChatGPTは、まだ出たばかりのAIだから、そこまでの精度はないと思うが、それも時間の問題だろう。
自分も含めて、文筆業の方々にとっては恐怖である。
ある小説家、作家が亡くなっても、続編の小説が読めるのである。(笑)
自分が最近興味があるのが、AIが創作したものに著作権があるか、というテーマである。その文献を見かけたことがあり、そのままお気に入りに保持しているので、後日読んで感想を書いてみたいと思う。
MicrosoftがChatGPTのオープンAIに複数年で100億ドル投資したニュース記事を読んだ。どんどん精度が上がっていくに違いない。
さて、話がそれてしまったが、AIの活躍する分野というのは、やはり信号処理(画像・音声)と解析・予測である。
コンサートホールといえば、自分はもう音響、ホール音響、ホールの響きである。この天がお召あそばされた深遠なる建築音響の世界。まさに数学理論の世界。建築音響の専門書を読んでも数式だらけでチンプンカンプンである。(笑)
でもコンサートホールが好きで好きで堪らないホール愛好家の自分は、この深遠なるホール音響の世界をなんとか素人の人にもわかりやすいようなイメージで説明できないか、をチャレンジしたことがあった。それが2017年に連載した「コンサートホールの音響のしくみと評価」の連載日記である。これで、普段コンサートホールのステージ上で奏者が奏でる音が、ホール内をどのように伝搬し、反射し我々聴衆の耳に届くのかを理解できた。ホール音響の世界は、神秘的でミステリアスである。
ホールの容積、形状、天井の高さ、壁、天井、床の材質、それぞれに凹凸をつけたりの工夫、反響板、座席に使うシートの吸音性、ステージ床の材質、ステージ床下の空洞、もうすべてにおいてホール音響の要因作りの一因である。
音の印象の違いを決めるのが反射音のバランス。
ステージ上の楽器からの音が直接届いた直後の0.1秒間に、どんな反射音がどれくらい続くかが、そのホールの音の個性になる。また反射音の後に続く響きが、聴こえなくなるまでの時間を「残響時間」といい、サントリーホールのようにオーケストラの演奏に向いた大きなホールでは2秒。その最初の0.1秒の反射音をどう設計するかで、そのホールの音のすべてが決まります。
直接音から0.1秒の間にどの方向からいくつ音がくるかで響きの印象が決定づけられるという。ホールの天井高や形、壁、天井、座席といった要素すべてで、バランスのいい響きを確保した音響設計をおこなっています。(永田音響設計事務所 小口恵司氏。)
・・・である。この世界懐かしすぎる。(笑)徹底的に解明したい神秘的なミステリアスであった。
コンサートホールといえば、このホール音響なのである。AIを信号処理に使いたいとしたら、この音響のところに使えないか、というのは当然思いつく。AIの得意な処理として、解析というのがある。つまり入力データを学習させて、その特徴を形にするのである。
音響分析では、入力された音声データの音の強弱や周波数、音と音の間隔、時系列などさままな特徴量を抽出し、音響モデルで扱いやすい(コンピュータが認識しやすい)データに変換する。それをどんどん発展させていき、ホール音響の次元までにあげていく。
世界中のいろいろな国にあるコンサートホールの音響特性をAIで解析して、それを見える化できないか。そのホール固有の響きをAIで解析して、なにか形として残すのである。ホールによっていろいろな音響の形が測定されるであろう。
ただ、音響を解析するだけでは、ダメなのである。それじゃ実験に過ぎない。そこから我々のタメになることに応用したくなるのである。そこが最終形である。そのAIで解析した形から、音響補正できないか?自分はなにかできないか、ということを考えたとき、まず”補正”という言葉が思いついた。
音響補正である。
オーディオマニアならイコライザーとか、AVアンプの自動音場調整とか思い出しますね。それをひと回り大きく考えて、ホール音響そのものを補正できないか。
ホール音響は、もうそのホールを建ててしまったら、もう一義的に前述した条件下でホール音響、ホールの響きが決まってしまう。生憎条件が揃わなかったホールは、音響、響きが悪いホールとして烙印を押されてしまう。もうこの汚名はホールを解体するまで一生続くのである。
そのホールで音響をAI解析してその特徴を解析・見える化・データ化できたら、AIのデータの中には、音響の素晴らしいホールの音響の形という手本が蓄積されている。
そのお手本と比較して、その響きの悪いホール音響の形を、いい方向に補正していくのである。そうすると、どんなに響きの悪いホールでも、あら不思議、いい響きだわ、となってしまう。(笑)
デッドな響きで有名なイギリスのバービカン・ホールの中でAI解析をしてその音響の形を測定できたら、つぎに蓄積されているウィーン楽友教会の音響の形データを参考に補正をするのである。そうすると、あら不思議。バービカンホールの響きがまるでウィーン楽友教会のように豊潤で濃い響きに様変わり。。である。(笑)
この手法の欠点は、世界中どこのホールでも全部同じウィーン楽友教会の響きとなってしまうことである。(笑)
オーディオ製品では、部屋の固有の響きを自動で補正する機能が備わっている製品もある。部屋によって様々に変わる固有の響き、あるいはその欠点を補正して出力するのである。
オーディオの世界では、アンプ、スピーカーを通して出力するので、そういう部屋の響きの補正というのが実現可能である。
でもホール音響そのものを補正するとなると、やっぱり無理だろうか。(笑)アンプ、スピーカーが出力口ではなく、ホール全体の器で鳴っているものだから。
でもあきらめてはいけない。そんなことできっこないとバカにされていても、アイデアを出す側が偉いのである。ホール音響そのものを補正することは難しいかもだけれど、ホールの音響設計時にシュミレーションソフトで設計するとき、この音響AI解析という技術はプラグインで組み込まれているものではないのだろうか。
理想の音響の形にするために、どこをどう変えれば、その理想の音響の形に近づくのか、シュミレーション上で検討できるのである。手本に近づけるというアプローチであれば、どこそこの国のホールの響きと同じにしたい、というアプローチが可能になる。
ラトルがロンドンに新ホールを建設しようとしていたときに、ぜひミューザ川崎のような響きのホールにしたいと懇願した。そうすると、ミューザ川崎での音響をAI解析してその音響の形を測定する。そしてラトルのロンドン新ホール設計のシュミレーションのときは、その音響の形が、ミューザ川崎の音響の形のお手本に近づくように、ホール形状、材質、諸々のパラメータを変えていけばいいのではないだろうか。それはコンピュータシュミレーション上での検討段階では、簡単な操作のように思える。
現実問題、音響AI解析という技術は、現在存在するのである。
・音響AI解析による雨天時浸入水検知
・日立、音を解析するAIで製品や設備の異常音を検知
・AI音響解析サービス(下水道)に取り組む日本インフラ計測株式会社(産総研技術移転ベンチャー)
・音響診断AI化支援
コンサートホールの音響設計のときは、近い将来きっとそのシュミレーションソフトの中にAIはソフトプラグインとして組み込まれ、AIを使用しながら音響設計するという時代はそう遠からずそうなるに違いない。
でも自分は”DX時代のコンサートホール”というお題目で書いているので、ホール音響をAIでそのままリアル空間で変えてほしいのである。AIによる音響可変コントロールである。ホールによってはステージ上の反響板の高さを可変にすることで、演奏形態に応じて、その音響コントロールをしている。そんな音響可変コントロールをAIを使ってやってみたい。
どんなヘッポコホール音響設計でもあとで自在に音響修正できる。それをAIでできないか?そんなことを考えているのである。でもこんなことできるようになったら、ウィーン楽友教会のようなお手本になる音響をしたホールは、そんな計測、AI解析をさせたがらないですよね。(笑)みんなコピーされてしまうので。
ホール内でAIを使うケースとして、またもうひとつ候補がある。
それがレコーディングである。おそらくレコーディング、録音の世界では、もうすでにAI技術の導入は進んでいるに違いない。自分は最近全然ご無沙汰なので、まったくわからないがきっとそうに違いない。
AIを使ってこんなことができたらいいなーと思うのは、レコーディングのときの最終段のミックスダウンのとき。録音エンジニアの技量により、空間の取り方、音質の煌びやかさ、低音の強調度、帯域バランス感覚、エコーのかけ具合、バランスエンジニアの作業。。。ほんとうに様々な録音テイストの作品にできあがる。この世界もずいぶんご無沙汰しています。懐かしいです。いまやスマホで音楽聴いています。(笑)
これはレーベルによって、あるいは録音エンジニアによって、随分変わるテイストになるものなのである。これはレーベルの録音ポリシーと録音哲学なので、彼らはそこに誇りをもって働いている。
PENTATONEなら温度感の高いサウンド、BISならワンポイント録音の空間重視の録音、Channel Classicsなら前へ前へと出てくるようなエネルギー感の大きいサウンド。(しかし懐かしいな~。(笑))もうそれぞれで哲学があって、サウンドにオリジナリティがある。
このミックスダウン、編集時の最後の音作りの嗜好をAIに学習させることができないか。AIに学習させ、あとは、どのようなアーティストがどのような楽器、楽曲を演奏しても、それがオーケストラであったり、室内楽であったり、リサイタルであったり、そんなこといっさい構わず、AIに学習させた通りのサウンド作りの最終形が出来上がるのである。
きっとそのエンジニアであれば、そう調理したであろう、そういう録音テイストで仕上がっているのである、どんな演奏形態であっても。
エンジニア不要論である。(笑)
スンマセン、怒らないでください。ペーパー上の極論です。
ライナーノーツの録音部のクレジットのところは人の名前ではなく、AIと記載されているのである。
たぶんレコーディング、録音の世界では、マイキングでのステージ上でのマイク設定のポジショニングとか、ミックスダウンの編集時とか、絶対AIの利用はあるはずだと思っています。
コンサートホールでのAIの利用はこんなところにもあるのだな、と思いついた次第です。